2008年12月20日土曜日
進化
「お前のプレーは教科書通りだ」
当時のコーチにそう言われたのは、高校2年の夏合宿での事だ。
私は高校に入ってからラグビーを始めた。
「ラグビーは紳士のスポーツです」という勧誘文句が、「紳士」という言葉に弱かった私の心にヒットしたのだ。もともと「楕円のボールを使う競技」という程度の知識しかなかった私は、コーチや先輩の教えをよく守り、またもともとの真面目な性格が相俟って、「教えられた通り」にプレーをマスターしていった。
そんなわけだから、私のプレーは教えられた通りのプレーとなり、冒頭のコーチの言葉となったのである。
冒頭の言葉も批判ではなく、むしろ褒め言葉として言われたのであるが、しかし、「教科書通り」という言葉がどうしようもなく私の心に澱のように残ったのである。結局、高校3年間で私のプレースタイルは変わらなかった。
その後大学へと進学し、ラグビー部の門を叩いた私を待っていたのは、「自主性」を重んじる合理主義のラグビー部の先輩たちであった。
高校時代は、夏場の練習では「水を飲んではいけない」と教えられてきた。
ところが大学の練習では、夏場は10分置きに給水する。
はじめは「水を飲むなんて、なんていい加減なんだ」と面食らった。
(もちろん今では給水が当たり前だ、苦しみに耐えてこその練習だという精神論重視の高校時代であったのだ)
もともと専門のコーチなどいないから、自分たちで考える。OBコーチがアドバイスするものの、自分たちの弱いところを自分たちで考えた練習で補強していくやり方だ。それまで教えられた通りにやるスタイルの私も否が応でも自分で考え、仲間と議論しトレーニングに打ち込んだ。いつのまにかK高校で培ったスタイルは、H大学流のやり方にアップデートされていった。
タックルも高校で教わったやり方は捨てた。もっと有効な方法を自分で見つけたのだ。「殴られたら激しいタックルで返せ」と教えられた私だが、「殴られたら殴り返せ!」と後輩には指導した。紳士ぶった精神論など役に立たない、殴り返せないようなやわな奴はレギュラーにはなれないと諭す自分がいた。(勿論、殴ったら重いペナルテイーが待っている。当然かくあるべしという精神論であるが、実際殴られたら殴り返すのである。私もそうしてきた。)
そして高校のOB戦。
昔の高校流のやり方の世界に自分流のアップデートを加えたスタイルで参加した。
高校を卒業してラグビーをやめてしまった仲間たちは昔の伝統的スタイルを守っていた。
だが、進化した私のスタイルはもはや「教科書通り」とはほど遠いものであった。
その時、私は本当の意味で高校のラグビー部を卒業したのだ。
高校の先輩たちには申し訳ないが、今の私のスタイルは「K高校流」ではなく「H大学流」なのであると自負しているのである・・・
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