2026年6月14日日曜日

ノルマの話2

 ノルマはいろいろな業種にあると思う。ノルマそれ自体が悪いものではないと思うが、それがだんだんと担当者レベルに落ちていった時にいろいろな弊害が出てくる。私も銀行員時代、クレジットカードや定期預金などの金融商品、貸出額や回収額といったさまざまなものにノルマを課された。今もそれは変わっていないように思う。つい先日、取引先の銀行の担当者に頼まれて投資信託をやらされたばかりである。その担当者にはそれ以前にクレジットカードを作らされてもいる。元銀行員として苦労がわかるだけについつい応諾してしまうのである。

 あれは入行して2年目か3年目だった時の事、別の財閥系の銀行に入った後輩から電話がかかってきた。曰く、クレジットカードを作ってくれないかというもの。そしてわざわざ私が勤務する支店にまで訪ねてきた。そして差し出されたのは某クレジットカードのゴールドカード。ゴールドカードとなると、当時の年会費は10,000円。私が作ってもらっていたのは年会費無料タイプだったから、頼んだ人には手間以外の負担はかけさせていない。しかし、年会費10,000円は若手銀行員の薄給には厳しいものがあった。

 断りたかったが、わざわざ困って訪ねてきた後輩を手ぶらで返すのも忍びない。ノルマがきついとこぼす後輩に覚悟を決め、さらに支店内を見回して優しかった預金課の課長さんにお願いして一口作ってもらった。その課長さんもとんだとばっちりだったが、「私の顔が立つなら」と引き受けてくれた。かくして予想外の2口の申込書を手に後輩は喜んで帰って行った。そのカードは1年で解約したのはいうまでもない。ノルマは「作成」であって「維持」ではな買ったからである(当然、預金課の課長さんにも解約をお願いした)。

 そうして作ったカードが銀行の経営にどれだけ貢献しているのかと問われれば、はっきり言ってほとんど貢献はしていないだろう。作るだけで動きのないカードなど管理費の負担だけであり、経営的にはマイナスである(ゴールドカードは別だが)。そんなバカみたいなノルマなどやめればいいと思うが、中には動いて収益をもたらすものもあるのかもしれないし、やめないところを見るとトータルでは採算が取れているという事なのだろう。それでもこの程度の負担であれば、何とかなるが、モノによっては厳しいものがある。

 保険なんかはおいそれとは頼まれたくないものの例である。その昔、銀行員時代の知人が某外資系の保険会社に転職した。それを聞いて真っ先に「来るな」と思った。そして案の定、彼は来た。曰く、保険に加入してくれと。保険会社の場合、まず転職に当たって知り合いの多さを聞いてくる。最初は知り合いから顧客を増やしていくためである。私もそれを聞いて保険業界に転職するのはやめたが、個人的に知り合いから勧めていくのは好きではない。「良いものだったら勧めるでしょう?」と諭されたが、「それはそうだがそれでもね」と断った。まぁ、確かに悪くはなかったので貯蓄だと思って加入した(今も入っている)。

 ただ、それでも車なんて高額なものになると、さすがに頼まれても簡単に「いいよ」とは言えない(自動車会社に就職した後輩はいたが、幸いなことに頼まれはしなかった)。自動車会社の営業マンには自爆営業しないといけないような厳しいノルマはあるのだろうか。あっても数は稼げないだろう。せいぜい身内ぐらいしか頼めないだろうと思う。それでもさすがに自家用車は他のメーカーのものにはできないだろうなと思う。自社に誇りを持っている人なら問題はないだろう。それかあえて外国車にすれば角が立たないのだろうかと考えてみる。

 いろいろと妄想は広がる。でもよく考えてみれば、ノルマが嫌なのは、「自爆営業」にあると思う。それがなければ精神的にも楽である。成績が上がらなくてもそれはまた別の問題である。そう考えたら、社員にノルマを貸すのは構わないが、「自爆営業禁止(あるいは許可制)」にすれば良いように思う。人は結局、尻を突かれないと動かないところはある。やり過ぎれば問題になる。プルデンシャル生命保険の不正事件はノルマというより過度の歩合制にあったようだが、ノルマみたいなものである。そこはうまくやらないと首脳陣も首を絞めることになる。

 プルデンシャルのような角の歩合制は別として、単なるノルマなら「自爆営業禁止」とするだけで、かなり社員の精神的な負担は軽減できるのではないだろうか。我が社にノルマはないが、そのあたりよく気をつけて「目標設定」をしなければと思うのである・・・




【今週の読書】
 全体主義の起原3 新版――全体主義 全体主義の起原 新版 - ハンナ・アーレント, 大久保和郎, 大島かおり みんな彼女のモノだった――奴隷所有者としてのアメリカ南部白人女性の実態 - ステファニー・E・ジョーンズ=ロジャーズ, 落合明子, 白川恵子 逆説の日本史: 大正暗雲編 対華二十一箇条と尼港事件の謎 (29) - 井沢 元彦 万物の黎明~人類史を根本からくつがえす~ - デヴィッド・グレーバー, デヴィッド・ウェングロウ, 酒井 隆史




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