自分は会社という場所に「自営業」をするために来ているというふうに思う
柳井正
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どこもそうだと思うが、我が社も経営幹部人材の育成に力を入れている。しかし、「経営」の考え方をすんなりと受け入れられる者とそうでない者とがいる。自分の中にある思考のフィルターがあって、こちらの考えがスムーズに入る人と撥ねてしまう人がいるのである。スムーズに入る人は成長も早い。我が社の場合、基本的にみんなエンジニアの出身である。しかし、エンジニアとしての能力と管理職としての能力は別物。優秀なエンジニアだからといって優秀な管理職となるわけではない。ここで躓く社員も多い。その原因はその人の思考フィルターである。
エンジニアとしては優秀で、現場で部長になり、そのまま取締役になった者がいる。しかし、頭の思考回路はエンジニアのままで、思考フィルターはエンジニアのまま。経営の思考をはねのけてしまい、最後の最後まで変わる事はなかった。そんな人物を取締役にしたのが間違いなのであるのだが、中小企業の場合、どうしても会社法で定める最低取締役人数をクリアする必要があり、しばし、そういう人物を取締役にせざるを得ないこともある。本人を責めるのも酷な話ではあるが、結果的には退任となってしまった。
その時にいろいろ議論する中で、「社長とは意見が違う」という発言がしばしばあった。意見が違う事自体おかしなことではない。しかしながら、後藤田5訓にもある「決定が下ったら従い、命令は実行せよ」というのは取締役以下、社員すべてにあてはまることである。決定するまでは積極的に意見具申するべきであるが、決定が下ったらあとはそれがあたかも最初から自分の意見であったかのように実行に移さねばならない。「気に入らないからやらない」ではダメなのである。
そもそも冒頭の言葉はなかなか深いと思う。我々は自らの労働の対価として顧客からお金をもらい、働いた報酬として給料をもらう。その基本は顧客も上司も同じである。なんでも言われるままにする必要はないが、そこは交渉で相手が納得すればこちらの都合の良いようにできるし、そうでなければ相手にあわせるしかない。それが嫌なら「取引しない」=「お金をもらわない」という選択肢がある。お金をもらいたければ相手にあわせたサービスを提供するしかない。
自営業者はそうして1人で仕事をしているのであり、それはサラリーマンとして働く1人1人にも当てはめられる事。上司を顧客だと思って相手の要求するサービスを提供してその対価として「評価」=「給料+賞与」をもらうわけである。相手を否定していれば、そもそも取引は成り立たない。私は「給料は『もらうもの』ではなくて『稼ぐもの』」という言葉が好きなのであるが、自分が持てる力を発揮してその対価として給料を稼ぐという「自営業的サラリーマン」という態度が誰にでも必要であると思う。
私の父は長年自営業で印刷業を営んでいた。誰も頼りにできない中、顧客から注文を受け、黙々とそれをこなしていた。幸い、腕が良かったせいで注文が途切れるという事はなかったようであるが、自営業は先の保証など何もないわけで、その点、仕事がなくても給料がもらえるサラリーマンとは違う。だからサラリーマンは気楽に仕事をするというのではなく(まぁ中には気楽に仕事をしたいという意識の低いサラリーマンもいるだろうが)、自営業者のように自分で給料を稼ぐという意識を持つべきである。その時に必要なのが「上司は顧客」という考え方だろうと思う。
私には父のように自営業をやる度胸などないが、かと言ってサラリーマンという立場に甘えたくはない。サラリーマンには自営業ではできない仕事もあり、サラリーマン自体悪くはないが、自営業者に対して胸を張れる働き方はしたいと思う。それが自営業的サラリーマンであり、具体的には「上司は顧客」という意識での働きだと思う(取締役は厳密に言えばサラリーマンではないのだが・・・)。それはおべっかを言うことではなく、卑屈に何でも言うことを聞くことでもない。常に自分なりの考えを持ち、積極的に意見具申し、その上で「決定が下ったら従い、命令は実行せよ」というスタンスであると思う。
自分はそういう意識で働いているが、今後は経営幹部育成に当たってそういう意識をみんなに植え付けていきたいと思う。そういう幹部が育てば、我が社も先行き安泰である。これまでは「自分が」という意識で良かったが、これからは「自分以外」にもそれを広げていきたいと思うのである・・・
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Rudy and Peter SkitteriansによるPixabayからの画像 |
【本日の読書】
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