2025年9月23日火曜日

論語雑感 子罕第九 (その12)

論語を読んで感じたこと。解釈ではなくあくまでも雑感
【原文】
子貢曰、有美玉於斯。韞匵而藏諸。求善賈而沽諸。子曰、沽之哉、沽之哉。我待賈者也。
【読み下し】
こういわく、ここぎょくり。とくおさめてこれぞうせんか。ぜんもとめてこれらんか。いわく、これらんかな、これらんかな。われものなり。
【訳】
子貢が先師にいった。「ここに美玉があります。箱におさめて大切にしまっておきましょうか。それとも、よい買手を求めてそれを売りましょうか」先師はこたえられた。「売ろうとも、売ろうとも。私はよい買手を待っているのだ」
************************************************************************************
 論語の解釈は難しい。そもそも翻訳も皆同じかというとそうでもない。微妙なニュアンスの違いもあり、それによって本来の意図とは違った意味に捉えてしまうこともあるかもしれない。この言葉もその真意は何であろうかと思う。ただ、美玉があって、それを取っておこうか売ろうかという訳をそのまま受け取っていいのかどうかはわからない。良いものは出し惜しみしてはいけないという事か、それとも価値あるものは取っておくよりも売って現金にして別のものにした方が良いという事なのか、表面的な解釈だけでは難しいところである。

 しかしながら、ここでは解釈ではなく雑感なのであり、かつ孔子の真意はわかるはずもないので気にしないことにする。取っておくか売るかはなかなか難しい問題である。価値あるものであれば取っておこうとするのが真実であり、売るということはその反対。そのものよりも現金の方に価値を置いているわけである。なぜならば、現金よりもそのもの自体に価値を置いていたら売ることはない。「いい値段がついたら売る」というのも同様。ある一定の金額に達した時点で、そのもの自体よりもお金の価値が勝ってしまうから売るのである。

 今回、私は妻と別居するに際し、徹底的に断捨離を実施した。実家がモノ屋敷になっており、私のものを持ち込めないという事情もあってである。昔から録画しておいたビデオテープがその最たるもので、すべて捨ててしまった。唯一、大学時代の試合のビデオだけはDVDにコピーしてもらうサービスを利用してDVDにした上で捨てた。続くは本であるが、これも後生大事に本棚に入れておいたのを捨てた。ビジネス系はもしかしたら息子が読むかもしれないと思って残したが、それ以外はかなり捨てた。売ることも考えたが、買取サービスを利用しても買い取ってもらえたのはほんの一部であった。

 ブックオフに持って行って売ろうかとか、Amazonのマーケットプレイスで売ろうかとも考えたが、手間暇を考えて捨てることを選んだ。お金よりも手間に価値を置いたのである。もっともそれが「美玉」かという問題もある。しかし、「美玉」であるかどうかも個人の価値観による。これまで捨てずに取っておいたのは、その古本に世間では認めない(タダでも引き取らない)価値を他ならぬ私自身が認めていたからである。それがここにきて売ろうと決めたのは、その価値の賞味期限が切れたということなのかもしれない。1年前だったら、売ろうとは思わなかっただろう。

 私には残念ながら美玉(世間一般に価値あるものとして通じるもの)と言えるようなものはない。ただし、個人にとって貴重なものならある。子供達が幼稚園の頃、私の誕生日に描いてくれたたどたどしい筆跡で書かれた言葉と絵の描かれた用紙は一生捨てることはないだろう。父にもらった時計も(42年経ってもまだ動いている)同様である。幸か不幸かブランドものに興味がないのが美玉がない理由であるが、お金のなかった時代(今もそんなにあるわけではないが)は読んだ本は片っ端から売っていたこともあったが(その時でも売らなかったものが残っている)、今はもうお金より手間である。

 そう考えてくると、美玉とは本当に美玉なのだろうか。本当に価値あるものなら手元に置いておきたいと思うのが自然であり、売ってもいいと思うのはお金よりも価値がないということに他ならない。お金より価値のないものが美玉なのか、それとも高い金額がつくものが美玉なのか。子貢が孔子に見せた美玉がどんなものだったかはわからない。ただ、孔子が嬉々として「売ろう」と言ったという事は、孔子にとっては本当に価値あるものではなかったのではないだろうか。そんな風に思うのである・・・


PetraによるPixabayからの画像


【今週の読書】
 監督の財産 (SYNCHRONOUS BOOKS) - 栗山英樹 潤日(ルンリィー)―日本へ大脱出する中国人富裕層を追う - 舛友 雄大 数学の世界史 (角川書店単行本) - 加藤 文元  星を編む - 凪良ゆう





0 件のコメント:

コメントを投稿