安倍晋三首相の通算の在職日数が2019年11月20日で2887日となり、桂太郎氏を抜き単独で憲政史上最長となっている。これは現在も更新し続けているので、どこまで伸びるのか興味のあるところである。そんな長期政権の成果だろうか、外交面においてはかなりの成果が上がっているのではないかと個人的には思う。基本的に私は安倍総理に対しては是々非々の立場であり、外交面は支持、経済政策と憲法改正は中立、原発政策は不支持といったところである。
安倍総理を批判する声はかなりあり、その代表的な声は何と言っても「右傾化」だろう。今般、中東に自衛隊の駆逐艦を派遣することになったが、今回も「安倍さんが憲法を無視して、米軍と協力できるよう安全保障の在り方を勝手に変えてしまった。それに基づき大事な自衛隊員を中東に派遣する、しかも国会で彼らの安全性などをしっかり確認・議論もせずに。そのように自衛隊が中東に派遣されることが憲法違反なのであり、安倍さんのこれまでの存在ややり方が憲法違反だ」という批判を目にした。本当にそうだろうかと思ってみる。
同じものを見ても違う景色に見えるというのはよくあること。同じ円柱でも上から見れば円だし、横から見れば四角である。物事は見方によって随分と異なる。「色眼鏡」とは言わないが、安倍政権批判にはそんなところを感じることが多々ある。特に軍事面に関して反対する気持ちはよくわかるし、私も基本的に戦争反対である。しかし、戦争反対と軍隊反対は別物である。そのいい例が映画『海難1890』で描かれていた通り、「国民保護の視点」であり、軍隊の「良い使い方」である。批判派にはこの視点がゼロである。
我が国は戦争に負けて以来、アメリカの事実上の支配下にある。現在でもそれは同じであるが、一方で恩恵もある。たとえば虎視眈々と尖閣諸島と周辺の海洋資源を狙う中国を押しとどめているのは間違いなく日米安保の存在だろう。アメリカの事実上の支配下を脱するのが一番であるが、アメリカの傘の下だからこそ、中国との余計な衝突を避けられているのも事実である。したがって、アメリカの機嫌をうまく取らないといけない。そういう意味で、いまや「危険な大統領」であるトランプさんと安倍総理はうまく付き合っていると思う。
しかし、ご機嫌取り一辺倒ではなく、うまく立ち回っているのも事実である。批判はあるものの、今年習近平国家主席を国賓待遇で迎えようとしているが、あえて「国賓待遇」とすることで、中国の顔を立てているとも言える。安保だけに頼るのではなく、善隣外交こそが平和への道であり、中国の圧力がなくなればアメリカの支配から脱する道も開ける。いがみ合う米中二つの「暴力団」の間に立地する我が国の立場としては、どちらを敵に回してもうまくない。舵取りが非常に難しいと思うが、それをやろうとしているのだと思う。
そんな中での中東への自衛艦派遣は、アメリカが進めているイランに対する圧力への協力である。しかし、我が国は歴史的にイランとは友好関係にある(『海賊と呼ばれた男』に描かれている感動的な歴史がある通りである)。「あちらを立てればこちらが立たず」の中にあって、アメリカの求めに応じて自衛艦を派遣することでアメリカの顔を立てつつ、それはアメリカ主催の「有志連合」への参加ではなく、微妙に派遣海域をずらすことでイランの顔をも立てるという芸当である。
「憲法を無視して、米軍と協力できるよう安全保障の在り方を勝手に変えてしまった」「自衛隊員の安全性などを確認・議論もせずに」「安倍さんのこれまでの存在ややり方が憲法違反だ」という先の批判意見について言えば、上記のような視点が決定的に抜け落ちている。円柱を横からしか見ないで「四角だ」と言っているのと同じである。あるべき姿を目指すのはいいとして、今現在自分が置かれた状況がどういうものなのか、そこへ至るにはどういう方法がいいのか、様々な角度から考えていく必要があるだろう。一面的なものの見方だけでは、物事の本質に迫れないし、解決策も導けないと思う。
安倍さんは、さらにロシアのプーチン大統領とも平和条約の話を勧めているし、中国が支配拡大を狙っているアフリカ諸国とも訪問、首脳会談等を通じて我が国の存在感を醸し出している。それらは新聞等で報道されているニュースの扱いも小さく、私もすべて掌握しているとは思わないが、目立たない中で歴代政権に比べかなり積極的に動いていると感じている。長期政権の成果と言えるかもしれないが、いずれ安倍さんが交代した時、この外交がどうなるのかちょっと不安である。
995645によるPixabayからの画像 |
【本日の読書】
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