昼休みに、いつものように弁当を買いに外出すると、会社の近くの交差点のところで署名活動をしているご婦人の人たちがいた。横断幕も作ってかなり本格的なものだ。呼びかけていたのは、「戦争反対、ロシアはウクライナから即時撤退せよ」というもの。どうやら署名はウクライナからロシアの撤退を求めるものであったようである。ご婦人方に声をかけられて署名している人もいたが、私は横目でそれを見ながら通り過ぎた。幸い、声をかけられることはなかったが、もしも声をかけられても署名は丁重にお断りしただろう。
こうした署名活動はいろいろあるが、果たして何の意味があるのだろうと思ってしまう。私はこうした署名活動には基本的に応じないことにしている。実態のわからない人たちの活動に自分の名前を書きたくないという気持ちもあるが、そもそも意味のない活動には携わりたくないという気持ちが強い。こうして署名を集めて、いったいどうするのだろう。政府に持って行ってプーチン大統領に渡してもらうのだろうか、それともロシア大使館にでも持って行くのだろうか。
仮にそれなりの数が集まって、仮に政府なりロシア大使館なりが受け取って、仮にそれがプーチン大統領に届けられたとしても、果たしてプーチン大統領がそれを見て戦争をやめるかと言うと、絶対にそんなことはあり得ない。もしも戦争をやめられるとしたら、それはバイデン大統領が「ウクライナを永久にNATOに入れない」と約束することだろう。もしもそれが宣言されたなら、多分すぐに停戦となるように思う。あるいは別の可能性として、戦争に双方が疲弊して休戦となるかであって、集まった署名ではない。
そんなことはちょっと考えてみればわかることで、寒風の中、そんな意味のない署名を集める意味などあるのかと問えば、おそらく携わっているご婦人方の自己満足くらいしか意味はないと思う。その昔、銀行員時代に組合活動でベアの要求等で署名を求められたことがあった。あれにはやむなく署名したが、どんなに組合員の「切実なる思い」を経営側に届けたとしても、それで決定が覆ったり変わったりすることはないと思ったし、実際変わったことなどなかった。単なる組合執行部のパフォーマンスであったが、そんなものに署名するのも苦痛であった。
ただ、すべての署名活動が無駄かと言えば、そうとも言えない。最近では、秩父宮ラグビー場の移転建て替えが発表され、ラクビー愛好家から反対の声が湧き上がっている。署名(と言ってもネットでのようであるが)活動も沸き起こっている。こういうものは、反対の声が大きいと、関係者の中で「見直し」の意見も出てくるかもしれない。ましてや政治家が動けばその可能性も高くなりそうな気もする。可能性は低いかもしれないが、それでもロシアにウクライナからの撤退を求めるよりは遥かに確率は高いと思う。
さらに最近では、政府にメールで意見を言える仕組みもあるようである。それもある程度の数が集まれば、あるいは政治家も考えるかもしれない。そういうものは、ある程度の意味はあると言えるかもしれない。私も頼まれればそれくらいの活動になら協力するかもしれない。私の性格ではあるが、何にせよ「戦略」というものを考えてしまう。「どうしたらうまくいくか」ということである。その絵が描けないとやる気は起きない。やるからには、どうしたらうまくいくかと考えて、わずかでも可能性があればそれに賭けるという感じである。大抵の署名活動にはそれがない。
もしもロシアにウクライナから撤退させたいと思い、それで署名活動をしなければならないとしたら、それはプーチン大統領に対してではなく、バイデン大統領に対してであろう。それならありうると思えるし、どうせやるならそちらにしたいと思う。もっとも、バイデン大統領にすれば、戦争が長引いた方がロシアが疲弊して国力を落とすので、黙って続けさせる方を選ぶに違いない。自国の武器も売れるし、目障りなロシアが衰退するなら一石二鳥である。こちらも署名など集めてもカエルのツラに何とかだろう。
それにしても、寒空の下、署名を呼びかけていたおばちゃんたちは、実にご苦労なことであった。純粋な気持ちからなのであろうが、物事は表面的なことではなく、本質的なところをきちんと理解しないとトンチンカンなことをする羽目になる。「寒さに負けず、平和のために署名活動に携わる」という気持ちは立派だが、どうせならもっと効果的なものにそれを振り向けた方が良いのになと思ってしまう。そうドラチックに思うのが良いのか悪いのかとは思うが、私は無駄だと分かりきっていることはやっぱりやりたくないと思ってしまう。
「平和活動に携わる自分」に酔いしれる気持ちはわからなくもないが、私はそこにやっぱり「効果」を期待してしまう。署名活動にその効果があるとは思えず、これからも署名の類には応じたくないという気持ちは変わらないだろう。やるからには(自己満足以外の)「意味のある」ことをやりたいと思うのである・・・
HermによるPixabayからの画像 |
【本日の読書】
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