2022年7月28日木曜日

論語雑感 雍也第六(その21)

 論語を読んで感じたこと。解釈ではなくあくまでも雑感。

【原文】子曰、「中人以上、可以語上也。中人以下、不可以語上也。」
【読み下し】
いはく、なかびとうへには、うへかたかな
なかびとしたには、うへかたからかな

【訳】

先師がいわれた。

「中以上の学徒には高遠精深な哲理を説いてもいいが、中以下の学徒にはそれを説くべきではない。」

『論語』全文・現代語訳

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 なかなか解釈は難しいが、要は人を教えるには相手の能力に応じなければならないという意味なのだろう。それは確かにその通りであると思う。簡単に言えば、小学生に中学生で習う数学を教えても難しいし、中学生に高校数学を教えても難しいだろう(例外的な天才は除いてであるが)。我が社では、現在、新人研修を終えた新入社員が現場への配属を控えている。そんな彼らに経営上の課題を説いても理解が難しいだろう。まずは自分の目の前のことで一杯であろうし、理解できる経験もキャリアもないからである。


 相手に応じて教えるというのも確かにその通りであるが、それも結局は「順序」であるように思う。小学生はやがて中学生になるので、その時中学の数学を教えれば理解できる。中学生も高校生になれば高校数学も理解できる。新入社員もキャリアを積めばいずれ経営について理解できるようになる。教える「時期」のミスマッチであって、必ずしも能力というわけでもなく、むしろ適切な時期であれば誰でも大概のことは理解できる(教えるに相応しくなる)ように思う。


 我が社の取締役の中には、どうにもその地位にふさわしいとは思えない人がいる。事あるごとに意見は合わないし、意見が合わない事それ自体はおかしな事ではないが、そもそも取締役としてその考え方はいかがなものかと首を傾げるような意見が出てきたりする。それはどうなのだと考えてしまう。下手にこちらの意見を通そうとすると無理に反論してきて収拾がつかなくなるので、ほどほどにしているが、そうすると議論が前に進まない。どうしたら取締役としての考え方ができるようになるのか、あるいは教えられるのかと悩むところである。


 しかし、いろいろと考えてみると、その意見の対立の原因は、お互いの「立ち位置」にあるように思う。「見ている景色」が違えば意見も合わなくなる。山に住む者は太陽は山の間に沈むと言い、海辺に住む者は海の向こうに沈むと言う。どちらが正しいのか、お互いいくら議論をしても対立は解消されない。議論の前に、山に住む者は浜辺で沈む太陽を見る必要があり、海辺に住む者は山の間に沈む夕陽を見る必要がある。お互いに相手の見ている景色を見て初めて同じ土俵で議論ができる。


 我が社は従業員数100名に満たぬ中小企業であるが、毎年一定数の新卒採用をこなしている。私が入社した時、「よく新卒など採用できるな」と感心したものであるが、それは前任者が足繁く地方の学校に通い、人間関係を築き、そうして会社案内の場を設けてもらい、面接・採用とつなげてきたもの。その間には、仲良くなった教授から「頼む」と言われて二つ返事で採用した学生もいるが、そうした学生は得てして出来が悪く、引き受けた部署の役員の不評を買っている。「なんでそんな者を採用したのか」と、「採用時の面談でしっかり判断しろ」と。その意見自体は正しい。


 採用にあたっては、しっかり面接し、審査し、適した者を採用するのが当然である。親しくなった教授から頼まれただけで採用するのは何事かと言うのは正しいが、それは部分的である。のちに優秀な生徒が内定取り消しにあい、慌てて紹介されて採用したケースもある。普通にいけば採用できなかった学生である。彼は今、中堅として活躍している。8人採用して1人ダメだからと言ってそこに焦点を当てるより、7人成功したという事実にこそ目を向けるべきであると思う。そして、それは議論の前にきちんと説明すべき事情である。


 山に住む者と海に住む者とが議論をする時、大事なのはお互いに見ている景色を共有する事であるが、その時、「相手のレベルが低いから教えても無駄」と思ってしまうと永久に相互理解は成り立たない。大事なのは、まず同じ土俵に立って同じ景色を見るという事である。中小企業が新卒採用をするにはリスクテイクが必要である。そのリスクを批判するのではなく、どうカバーするかを考えないと採用それ自体ができなくなってしまう。同じ土俵に立っていれば、「なんでそんな者を採用するのか」ではなく、「どうしたらそんな者を育てられるか」になるかもしれない。


 人のレベルなどそう変わるものではないという意識が私にはある。相手のレベルを見るのも大事だが、同じ景色を見せる努力の方が大事ではないかと思うのである・・・

 

an pham dinhによるPixabayからの画像 


【本日の読書】 

   



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