仕事において人間関係は重要である。仕事でなくてもであるが、特に仕事においては、であろう。社会人になって最初に直面した壁はこの人間関係の壁である。当時の私にとっては、それはとにかく「理不尽」の一言に尽きるものであった。「仕事は盗め」という方針で、何も教えてくれない。人事部からリクルート活動に協力せよ(当然勤務時間中にである)と指示が来るが、では仕事を抜けて行ってもいいかと問えば「ダメだ」と言われる。人事部から研修期間中は定時で帰れと指示されたのに、支店ではみんなが帰るまで何かやることを見つけてやれ(ただし残業申請はするな)と言われる。「なんなんだこれは」という連続であった。
最初に支えた上司は、仕事はできるがとにかく厳しい人で、若手はみんな震え上がっていた。右も左もわからない新人の私は、わからないことがあれば周りの先輩に聞く。しかし、「上司に聞いてくれ」と誰も教えてくれない。こちらは始終難しい顔をしているその上司には聞きずらいから聞いているのに、なんて意地悪なんだろうと思ったのであるが、後で聞いたら先輩たちは皆「わからない者が教えてもわかるわけがないからお前たちは教えるな」とその上司に釘を刺されていたという。仕事を覚えるよりもその上司に対する反発心ばかりが膨らむ毎日であった。
しかし、今振り返ってみれば、当時のその上司の考え方も理解できる。私を含めて当時の若手に決定的に欠けていたのは、「仕事について真剣に考えて取り組む」という姿勢であったと思う。仕事の一つ一つについて、とりあえず「こなす」というスタンスで、「なぜそれをやるのか、他にいい方法はないのか、そもそもそれをやるべきなのか」といった根本的な部分から考えていなかったと思う。それは今の会社の若手を見ていてもなんとなく感じることである。それはそうであろう、若手の頃は仕事も大事だが、プライベートライフも大事な時期だろう。同じ熱量を求めても酷である。
当時のその上司が意地悪な人物であったのかというと、そうではないと思う。その人なりに仕事に対する信念があり、ただそれがこちらにはわからなかったのである。故に表面的な厳しさばかりを捉えて嫌悪していたというわけである。その人は私の仕事上のある工夫を知って褒めてくれていたと言うし、煙たがらずに懐に入っていろいろと話をしていたら、もっと違う関係を築けたかもしれないと思う。当時の私にはそんな考えまで及ぶことなく終わってしまったのは今となっては残念である。
今のシステム開発会社では、間接部門の私には本業のところはわからない。本業は1部と2部とに分かれ、それぞれ部長さんが仕切っている。それに営業が加わるが、とにかく3人の部長の関係がスムーズではない。それは詰まるところ互いに遠慮して言いたいことを言えていないからであると思う。皆私には自分の考えを開示する。私からすればそれを互いに意見交換すればいいと思うが、そうしない。たぶんそこには互いに対する遠慮と議論による対立を避けたいと言う気持ちがあるのだと思う。
そうした「配慮」は、(表面上の)穏やかな関係の維持という点では効果があると思うが、では会社の業績が向上しているかというとそうではない。会社の業績を伸ばしていくには、良いところと悪いところをそれぞれあぶり出し、良いところは全社的に展開し、悪いところは改善していくという必要がある。互いにそれを指摘し合えれば全社的に良くなるはずである。それが理想ではあるものの、やはり「衝突」を避けたがるのが日本的なものなのか、なかなか理想通りには進まない。
1人で仕事をするのであれば関係ないが、会社という組織で協力しあって仕事をするのであれば、感情的な対立やもつれは避けたいところ。業績を取るのか人間関係を取るのかは難しいところであるが、実はそんなに難しいことではないと思う。要は相手に対する「リスペクト」である。人は誰でも自分なりの価値観があって動いている。自分なりに正しいと思う行動を取っているのである。ならばまずはそれを尊重しないといけない。その上で、それとは違う自分の意見を「聞いてもらう」という姿勢が大事なように思う。
相手の意見を真っ向から否定するのではなく、また、本人のいないところで批判をするのではなく、自分の考えと対等に比較してどうかと公平に考えるようにしないといけない。自分の意見はもちろん遠慮なく開陳すべきだとは思うが、それが相手の意見より優れているというものではない。そういう意識があると、相手との議論も穏やかに進むように思う。自分の意見を聞いてもらうには相手の意見をきちんと聞かなければいけない。口の重い人ほど余計に話してもらうようにしなければならないと思う。
社会人になりたての頃、今のような考え方ができていたら、社会人生活ももっと楽に過ごせたかもしれないと思う。自分の親相手となると、まだまだ相手のことを考えるよりもついつい反論してしまうところがあるが、仕事関係では今のところよくできているように思う。こんな感じで、若い人相手であってもかつての自分のような思いをさせないように、うまく振る舞っていきたいと思うのである・・・
Gerd AltmannによるPixabayからの画像 |
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