2021年2月11日木曜日

抑止力

 近年、子供に対する虐待がニュースになることが多い。私など自分の子供が可愛くて仕方なかったので、虐待などする親の気が知れない。それは自分の血を分けた子供だからというわけではなく、たとえ自分の血が繋がっていなくても、だ。自分の子供に手を上げたのは、娘に一回、息子に数回。それも教育的な観点から、自分は冷静な状況で利き腕ではなく左手で引っ叩いており、感情的なものではない。

 奥さんに対するDVも同様で、私は結婚以来妻に手を上げたことなどないし(逆に引っ叩かれたことは2度もある)、それは別に威張ることでもないのだが、そういう感覚からすると家庭内DVなどを起こす男は知能レベルが低いとつくづく思う。そもそもそういう男は、相手が弱いからこそ暴力を振るうというずるいところがある。「勝てる」と思うから暴力に訴えるわけである。当然、勝てない相手には暴力など振るわない。

 熱力学の第二法則(熱は高い方から低い方へ移動する)と同様、暴力にも「暴力の法則」とも言うべき「強い方から弱い方へ向けられる」という力学がある。決してその逆はない。立派なことを言う私も、相手が男で、喧嘩をしても勝てるとわかればけんかになるのを厭わず対峙するのにためらうことはないが、勝てないと判断すればそんなことはしない。それは「喧嘩はよくないこと」といったきれいごとが理由ではなく、ただ単に「負けるから」である。

 この「負けるから」という理由は重要である。「負ける」あるいは「こちらも相応の被害を受ける」と思うから力の行使を思いとどまるわけである。別の言葉で言えば「抑止力」である。これは国際政治でも生きている力学である。第三次世界大戦が(今のところ)起こらないのも、かつての米ソを始め核大国が核兵器を充実させ、結果として発射ボタンを押すのを躊躇わせてきたからである。それは今も、多分これからも生き続ける力であろう。

 米ソに続いて中国やインド、パキスタン、イスラエルなどの国が核保有してきたのは、自国を防衛しようという意図だが、核の抑止力はかなり効果があるわけで、「持つだけ」で相手が手を出してこないわけで、それは下手な軍備よりもずっと効率的なわけである。パキスタンのような最貧国やイスラエルのような小国が核兵器を持ったのも、通常の軍備を揃えるにしては数に勝る相手(インドとアラブ諸国)に対して効率的だからだろう。

 翻って我が国はと言えば、日米安保があってそれが中国などの国に対する抑止力になっている。近年、中国の台頭とアメリカの衰えもあって抑止力が抑止力足り得るかという問題が出てきている。中には「日本も核武装すべき」という意見があるのは、この「抑止力として」である。核兵器はもはや「使う兵器」ではなく「脅す兵器」であり、そういう意味では「日本の核武装」も真面目に考える選択肢になると言える。

 日本の核武装などと言えば血相を変えて反対する人がいるだろうが、その人はこの「抑止力」の考え方が理解できていない人だと言える。とは言え、私も積極的に核武装すべきだというわけではない。持てば管理も大変だろうし、持たないに越したことはないと思うが、では無策でいいかと言うとそれも問題だと思う。日米安保はアメリカの理不尽なわがままに耐えなければならないという問題もある。それに変わる抑止力がないと黙って耐えるしかない。

 それに変わる抑止力は何かと言えば、それはやはり経済力しかないと思う。尖閣諸島に手を出したら経済交流をシャットダウンさせて中国に経済的なダメージを与えられるというのがベストであるが、これも相互依存関係を考慮すると今のコロナ対策どころではない国内手当が必要になるだろうし、現実的ではなさそうである。それに中国の経済力がもっと向上したらそれも意味がなくなるかも知れない。

 一国だけで強い相手に対抗するのはやはり難しいだろう。もっと一枚岩の強力な国際協力が必要だが、それを目指して設立された国連も抑止力という点では弱いし、やはり核兵器のような抑止力が効果的なのかもしれない。世界的に戦争が起こりにくくなっているのは、今のところ人類の理性の力というより、核を中心とした抑止力の力であろう。願わくばもっと人類の叡智が高まり、理性で制御できるようになればというところである。

 それに対し、家庭内では今のところDVを抑えるのは男の理性のみであろう。それしかないのかと思うも、本来それで十分でないといけない。「近所に通報されるから控える」なんて抑止力が働くようであれば(それでも働けばまだマシなのだが)、「情けない」という感情を持たないといけない。かつてあった武士道のようなモラルが世の男全員に行き渡ればいいのかも知れない。あるいは女性がもっと力をつけて力の抑止力を持つべきなのだろうか。それもいかがなものかというところである。

 やはり抑止力に頼らざるを得ない平和よりも理性に頼る平和が理想的なのは、家庭内も世界も同じであると思うのである・・・


2allmankindによるPixabayからの画像 

【今週の読書】

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