2020年12月24日木曜日

私の履歴書

 日経新聞の名物コーナーの『私の履歴書』は、私の好きなコーナーである。各界で活躍している方が、それまでの人生を振り返って、文字通りの「履歴書」を披露してくれるものである。みんな最初から優れた人物であったわけではなく、その時々で苦労して頑張ってきた結果、日経新聞で履歴書として披露できるようになったことがよくわかる。今月連載中の方は、特に日頃から直接お世話になっている方だけに、改めてその内容に感服している。紙面には書ききれない苦労もあったのだろうと、行間にも思いを馳せてみたり指定る。

 もしも、自分がここに執筆する機会がもらえたとしたら、果たしてどんな内容になるだろうかと夢想してみる。と言っても、無名の一般大衆の一員では間違ってもそんなオファーはこないだろう。大学こそ名の通った国立大学を卒業して都市銀行に入ったが、頭取にも役員にもなれる事すらなく退職し、名もなき中小企業に転職した身ではまずお呼びではない。だが、来たとしてもそれにふさわしい内容のものが書けるだろうか。そう考えてみると、やはり現在の我が身に応じた内容でしかないと、残念ながら思う。

 少し誇れるのは、大学受験の時だろうか。現役の時は、志望校を一校だけに絞って受験したが、失敗。浪人して捲土重来、予備校には行かず宅浪で1年間歯を食いしばって勉強して合格した。これは自分でもよくやったと思う。だが、それ以降は普通だ。大学では当時の風潮に反して授業にはよく出席したが、総花的な勉強で何を極めたということもなかった。就職も当時は真剣に考えたつもりだったが、今から思うと成り行き的だ。売り手市場の中で流れていった感じである。

 銀行に入っても、なんとなくガツガツ働くことがカッコよくなさそうで、一歩引いていたところがあった。今から思えばそれが出遅れた原因だったと思う。「おまえは公務員になった方が良かったんじゃなかったか」と言われたことがあるが、たぶん利益のために額に汗することが当時の私にはクールではなく、そんな心境を見透かされたのだと思う。30歳くらいの時は、自分の考えと回りの考えとが合わず、精神的に苦しい思いをした。今の自分から見れば苦々しく思える。

 目の前の仕事は全力で取り組んできたつもりであるが、まわりとのコミュニケーションに難があったのは事実である。サラリーマン社会では、常に客観的に理想的な対応が取れるわけではない。部長や支店長の顔色を伺う直属の上司のご都合に合わせなければならなかったり、お客様より組織の都合を優先させなければならなかったり。今であれば上手くやれる自信があるが、その時は理想との葛藤の中で難しかった。理想的な立場からは正しくとも、現実に職場の中の協調という点では相容れなかったことが多々あった。

 仕事だけでなく、ラグビーも恋愛も不器用だった。不器用でもサマになるのは高倉健ぐらいで、一般人としてはやはり中途半端でしかない。ラグビーもようやく自信が持てるようになったのは、肉体的にもそろそろ引退を考えねばならない30代も半ばになってからだ。女性に対するアプローチも、もう少し器用に情熱的にやれていたら、もっとモテていたかもしれない。「ああすれば良かった、こうすれば良かった」という後悔のデブリがいたるところに散乱している。しかし、そんな後悔があるからこそ、今の自分に辿り着けたのも事実であり、難しいところがある。

 どうやら私が書く『私の履歴書』は、日経ビジネスの『敗軍の将、兵を語る』の方が相応しいように思う。それでもよくよく思い起こしてみれば、仕事でもなかなかうまく事を成し遂げたことはいくつもあるし、お客さんに喜んでもらえる仕事をしなかったわけではない。上司が対応してダメだったことを私が対応して可能にしたこともある。銀行を辞めて挨拶に行ったら、同じ不動産業界の方からは歓迎されたのである。特に不良債権担当部門にも関わらず、業績の悪いお客さんから高く評価していただいたのは、我ながらよくやったのではないかと思う。

 ラグビーも全国大会とは程遠かったが、草の根レベルで心から楽しい経験ができたのも事実である。勝ち負けに涙を流したこともあるし、今でも週末に仲間とともに汗を流す事ができるのもありがたいこと。私の履歴書も新聞に載せるほどのレベルではないが、身の回りの人にそっと語るくらいはできそうである。まぁ、誰でもそのくらいはできるのだろう。そんな身の丈レベルではあるが、この後ももう少し面白い履歴書を書けるようになれればと思う。

 日経新聞の連載の方もこれからいよいよ残り少なくなってきた。大先輩の履歴書の残りを楽しむとともに、身の丈レベルの自分の履歴書ももう少し読み応えのあるものにできないかとも思う。これから波乱万丈というのもしんどいが、そこそこに頑張ったと思えるようなものにしたい。子供にも背中で語りたいと思うし、そういう「履歴書」意識をもって、これからの難局に臨みたいと思うのである・・・



【本日の読書】
  




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