下足番を命じられたら日本一の下足番になってみろ。そしたら誰も君を下足番にしておかぬ
小林一三(阪急・東宝グループ創業者)
************************************************************************************
我が家の子供たちもいずれ社会に出ていく。就職するにあたって自分は一体どんなアドバイスをしてあげられるだろうか。たまにふとそんな事を考えてみる。自分は、と言えば、社会人デビューはいきなり試練と失敗の日々であった。今から思えばもっと違う心構えで臨んでいればと後悔の念が強い。子供達には、そんな失敗をしてほしくはないと思う。スムーズに社会人デビューできれば余計な苦労もしなくて済むだろうと思う。
何のために働くか、と問われれば、それは第一に生活のためである。給料がもらえなければ仕事はできない。一生食べていくことができるお金があって、暇つぶしの趣味で働くという人でない限りこれは同じだろう。だが、だからと言って「お金のためだけ」に働くのはちょっと寂しい。プライベートライフももちろん大事だが、仕事で得られる達成感や満足感、充実感といったものがあれば、なお人生は楽しいと思う。
私の場合、大学を卒業して銀行に入った時は、仕事の目的とはすなわち「お金100%」という考え方であった。だから昔気質の強い八王子という郊外店に配属され、連日8時までサービス残業を強いられ、毎日不満たらたらであった。疲れて独身寮に帰ってきて遅い夕食を食べていると、5時に仕事を終えた都心店の同期の面々が一杯飲んで帰ってくる。同じ同期なのにこの違いは何なのかと、こぶしを握り締めていた。しかし、今から思うと、そんなつまらない感情は捨て、支店にいる時間をたっぷり使っていろいろと学べただろうにと思う。
少しずつ変わっていったのは、先輩が「俺は常に自分のいた支店に自分がいたという証を残したい」と語っていたのを聞いてからだろうか。その先輩は、たとえ資料庫の整理のようなことだろうと、自分がいたことによって何かが変わったという証を残すようにしているということであった。大学のラグビー部の先輩でもあったし、自分も何かそんな形を残したいと思うようになったのである。それは今に至っても変わらぬ考え方である。
この「考え方」はとても大事だと思う。どんな仕事であれ、人より優れた結果を残してやろうとすれば、「創意工夫」が生まれる。それを「熱意」を持ってやれば、たいがいの事はうまくいくだろう。織田信長の草履持ちは何人もいたと思う。しかし、豊臣秀吉だけが懐に入れて温めるということをした。「日本一の下足番になるには」と常に考え続けていれば、「寒い日に温かい草履を履けたらいいだろう」という思いに至り、「では懐に入れて温めよう」となったに違いない。
会社に入れば、コピー取りなどの雑用ばかりだろう。それを嫌々ながらやるか、それとも「この資料はどういうシチュエーションで使うのか」と考えて工夫して取るのかによって結果は随分違うだろう。自分も今の会社に来て以来、あらゆるものをことごとく変えてきている。それもただ変えればいいというものではなく、効率化や収益化につながるように、働き方が楽になるように、である。それでお客さんや一緒に働く同僚に喜んでもらえれば、「給料+α」のものが得られる。これこそが仕事の醍醐味ではないかと思う。
おそらく学生の感覚では、「仕事は楽で、働く時間が短く、給料は高い」方がいいと考えるのかもしれない(かつての自分のように)。もちろん、給料が高いのならそれに越したことはないが、どんな仕事であれ、自分が関わったことで他の人がやるのとはちょっと違った結果となり、それでお客さんや周りの人がちょっとハッピーになる。そんな働き方をしてみれば、仕事も単なる生活手段にとどまらず、人生をより豊かにするものになるだろう。まさに、今の自分のように・・・
【本日の読書】
0 件のコメント:
コメントを投稿