子張學干祿。子曰。多聞闕疑。愼言其餘。則寡尤。多見闕殆。愼行其餘。則寡悔。言寡尤。行寡悔。祿在其中矣。
子張、禄を干むるを学ぶ。子曰わく、多く聞きて疑わしきを闕き、慎みて其の余りを言えば尤め寡なし。多く見て殆きを闕き、慎みて其の余りを行えば悔い寡なし。言に尤め寡なく、行いに悔い寡なければ、禄其の中に在り。
【訳】
子張は求職の方法を知りたがっていた。先師はこれをさとしていわれた。なるだけ多く聞くがいい。そして、疑わしいことをさけて、用心深くたしかなことだけを言っておれば、非難されることが少ない。なるだけ多く見るがいい。そして、あぶないと思うことをさけて、自信のあることだけを用心深く実行しておれば、後悔することが少ない。非難されることが少なく、後悔することが少なければ、自然に就職の道はひらけてくるものだ
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2,500年前の孔子の時代、中国でどのような求職事情があったのかはわからないが、求職に関する孔子の考え方としてなかなか興味深い言葉である。孔子は、「なるだけ多く聞いて、疑わしいことを避け、用心深く確かなことを言っていれば非難されない」と語る。確かにその通りだろうと思う。さらに「危ないと思うことを避け、自信のあることだけを用心深く実行せよ」とする。これもその通りだろう。
その通りだとは思うが、なんとなくこの通り実行している人物像をイメージして行くと、「お役所の中間管理職」という気がしてくる。常に上司の意向を気にし、間違いのないように前例踏襲に徹し、リスクのあることは避け、確実なことだけを着実に実行している。下手な意見など言わず、上司の言う通りに従っていれば間違いを犯すこともないだろう。ひょっとすると、公務員試験に論語があるのかもしれないと思ってしまうくらいである。
しかし考えてみれば、この手のサラリーマンはお役所に限らず今やどこにでも普通にいるのかもしれない。かつて勤めていた銀行にもたくさんいた。徹底してリスクを避け(上司が容認すれば別だが)、常に安全な判断をしたがる。迷ったら過去の事例はどうかと考え、他行はどうしているかと考える。特に中間管理職になればその傾向は強くなる。それはいわゆる「減点主義社会」の当然の帰結なのかもしれない。成果をあげることも大事だが、それ以上に失敗しないことが大事な社会である。新しいことをやろうとすると、ハンコがいくつも必要であり、途中で嫌になってしまうのである。
大手企業を尻目に、ベンチャー企業の動きがいいのは当然である。そういう中間管理職がいないから、下からの意見が上がりやすい。組織も小さいから上意下達も早いということもあるかもしれないが、それ以上に「何も無理して自分がリスクを冒したくない」と考える中間層(厚い壁層だ)がいないことが大きいと思う。大企業であれば基本的に安泰だろうし、失敗がなければ多少成功がなくてもある程度までは出世できるだろうし、何よりもその方が楽だろう。
言葉で書けば、誰でも自分はそんなサラリーマンではないと言うだろうが、今やこの手のサラリーマンの方が確実に多数派だろうと思う。大企業の管理職(多少役職がつけば)ほとんどそうなのではないかという気がする。役職のない者でも、「言っていただければやります」という「言われた事だけ真面目にやる」タイプは多いだろう。そういうタイプは裏を返せば「言われた事しかやらない」のだが、そういうタイプのサラリーマンがいいのかどうかと問われれば、私は「否」と答えたいと思っている。
果たして孔子の真意はどこにあるのだろうか。もちろん、2,500年前の中国の就業事情などわかるはずもなく、それを現代に当てはめて批判するのは正しくない。今と違って労働基準法もない時代、とにかく職を得るためには経営者に気に入られないといけなかったのかもしれない。仕事の内容も単純だったかもしれないし、「(リスクを負っても)自分で考える」などという必要もなかったのかもしれない。そういう事情もわからずに批判するのは正しくはないと思う。
いくら孔子の言葉でも、時代・地域・文化の相違から現代では相応しくないというのも当然あるだろう。それは仕方のないことであり、そういうものと受け止めるしかない。もっとも、それは働く者の考え方にもよるもので、「とにかく無難に」「ミスさえしなければそれでいい」と考える者にとっては、今でも十分真実であるだろう。受け止め方の問題でもあるかもしれない。
「疑わしいことは疑問点を明確にし、用心深く確かなことと不確かなことを明確にした上で、あぶないと思うことは万が一の対応策を用意し、自信のあることだけにとどまらず敢えてリスクを取って果敢に実行する」
自分はそんな風でありたいと思うのである・・・
【本日の読書】
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