小林一三
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兵庫県三田で「エスコヤマ」という洋菓子店を経営しているパティシエの『丁寧を武器にする なぜ小山ロールは1日1600本売れるのか』を読んだ。詳細は『こんな本を読んだ』にまとめたのであるが、それ以外に「働く姿勢」という点で、大いに感じるところのある本であった。
著者は、高校を卒業後、今はなきスイス洋菓子店「ハイジ」に入社する。洋菓子職人であった父の背中を見て過ごし、「激務の割に収入が少ない」のでやめろという母の制止を振り切っての就職であった。ところが最初の配属は、希望していた菓子作りとは関係ない「喫茶部門」。就職して希望部署に配属されないということは、よくあること。私も銀行に就職して配属されたのは、華やかな都心店ではなく、ローカルかつ独身寮内で評判の悪かった八王子支店で、通知を受けた瞬間は愕然とした記憶がある。
著者は、ここで腐らずすぐ気持ちを切り替える。約10種類あった紅茶を出す仕事だが、しばしばお客さんが飲み残していく。気になった著者は、お客さんが残したものを自分で飲み、何がいけなかったかの反省をして入れ方を工夫したという。これは言われてやったものではない。普通に紅茶を出し、お客さんが帰ったら下げておしまいでも何も言われないだろう。だが、「なぜ残したんだろう」と疑問を持ち、その原因を探り、入れ方が悪かったとわかると自分なりに研究する。
この時の考え方、「スタンス」が素晴らしい。以下、著者の言葉をいくつかメモした。
1.
嫌な仕事であってもやらなければならないなら、とことん楽しんでやる2. 単純作業をつまらないと思ってしまったら、そこでゲームは終わる
3. 人と同じことをしていたら気が済まない。どんなことでも他の人が1なら自分はその倍やる
4. どんな仕事でもNoと言わない
5. 一見関係なさそうな経験でも、いずれ点と点が結ばれて線となる。どのような経験も無駄にはできない。何となく仕事をこなしている場合ではない。あらゆる仕事から吸収しないと自分の角は取れない。
さらに「スタンス」に加えて「創意工夫」である。紅茶とともに出すトーストとバターを買い入れたまま何の手も加えずお客さんに出していたが、それは如何なものかと、バターをバラの花の形に加工して出したと言う。誰に指示されたわけではなく、自分自身で感じ、そして行動で表したわけである。また、パン作りの練習にも精を出し、毎日9時に閉店した後、10時から12時までをその時間にあて、翌朝3時にケーキ作りの担当の先輩に迎えに来てもらい、ケーキ作りの助手をしたという。この「熱意」が素晴らしい。
睡眠時間3時間で、形だけ見れば「ブラック企業」顔負けの労働時間である。先日、電通の若手社員が激務から自殺してしまったが、自ら意欲的に働いていると過酷な労働も明日への糧となるのである。何も激務を推奨するわけではないし、そうするべきだと言うつもりもない。ただ、「やらされている」のと、「自らやっている」のとでは、外見上同じようにハードに働いていても、その結果は雲泥の差がある。人を使う時にそれを求めるのは間違いかもしれないが、自分で働く場合には常に意識したいところである。
結局のところ、仕事をする上で何が必要だろうと考えると、「熱意」と「創意工夫」と「(仕事に臨む)スタンス」は、重要キーワードであると思う。この3つのマインドを持っていれば、どんな仕事であれきちんとした成果は出せるのではないだろうか。もっと考えれば、仕事に限らず、例えばスポーツでもこれは当てはまると言える。球拾いであっても、先輩たちの練習を観察しながらやっていれば、得るものもあるだろうし、創意工夫によって自分に必要な練習時間を確保したりできるだろうし、何よりもそうした行動を支える熱意があれば、いやでも上達するだろう。
自分はどうだっただろうと考えると、少なくとも若手の頃はとても褒められたものではなかった。最初からこの3つのマインドを持っていたら、もっと銀行で出世していただろうし、今とはもっと違う自分であっただろう。とはいえ、今ではこの3つのマインドに少なくとも気がついているわけであるし、自分は自分で常にこの重要キーワードを意識していたいものである。
我が家の二人の子供も、いずれ社会に羽ばたいていく時が来る。大した財産は残してやれないし、持たせてもやれない。しかし、せめて世の中を渡っていく上での強力な武器として、親父からこの3つのマインドを持たせてやりたいと思うのである・・・
【今週の読書】
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