2023年5月21日日曜日

社長の見分け方

 銀行員時代、多くの企業経営者にお会いしてきた。若くして経営者と直接お話をすることができるのは、銀行員のメリットと言える。もちろん、相手が大企業となれば一兵卒の立場で会うのは難しいが、中小企業となると社長と話をするのは普通のことになる。そうして実にいろいろな経営者とお会いしてきたものだと、今になるとしみじみと思う。社長といっても創業社長もいれば二代目もいる。だが、内部昇格の社長はあまりいなかった。それだけ中小企業の事業承継が難しいということの裏返しだったりする。

 中小企業では、社長はたいていワンマンである。それは自ら創業し、事業を率いてきたという意味では社長以上の人材はいないわけであり、また、中小企業には「言われたことを真面目にやるだけ」の社員が多くなりがちである。そういう教育を受けずにきていたり、古い内部体質で新参者が口を出しにくい雰囲気が出来上がったりしていたりする。よく社長が「我が社には人材がいない」と嘆くのもそういう事情があったりする。そういう環境もあり、社長はワンマンになりがちなのである。

 ワンマン社長も良し悪しである。社員のことをよく考えてくれる社長であれば働く環境もいいだろうし、安心して働けるだろう。一方で、ワンマン社長は王様であり、社内では誰も社長には意見をしない(できない)。ゆえに好きなことができる。社員の10倍の給料を取ったって誰も文句は言わないし、平日にゴルフに行っても、高級車を社用車として買っても、個人的な飲み食いの領収書を回しても誰も文句は言わない。かつて愛人に30年間破格の給料を払っていた社長もいた。

 その会社では愛人に毎月90万円の「給料」が払われていた。きちんと源泉徴収もし、社会保険料も払い、書類の上では他の社員と何も変わらない。ただ、一度も出社したことがないというだけである。その会社では給料が30万円の社員さんがいたが、その事実を知ったらどう思うだろうなとその時考えてしまった。もちろん、給料の支払い事務を行う経理社員は気づいていただろう。誰にも迷惑はかけていないが、資本主義社会の一つの世界であることは間違いない。

 もっとも、欧米に目を向ければ、専門の経営者などは1年で億単位の報酬を得るわけであるから、日本の中小企業の経営者など可愛いものかもしれない。それでもやはり働くならいい経営者の下で働きたいと思うのが普通だろう。どうしたらいい経営者の会社に入ることができるだろうか。その前にどこの会社の経営者がいいとどうしたらわかるのだろうか。これはなかなか難しいと思う。ただ、大企業となるとコンプライアンスの概念が発達しているから、比較的ワンマン社長の横暴に振り回されることは少ないかもしれない。

 と言ってももちろん、例外はある。我が社とお付き合いのある某上場企業は超ワンマン社長。社長に「意見具申」した役員は次々と去って行き、残っている役員もイエスマン状態。ストレスもだいぶありそうである。それでも会社の業績が良ければまだしも、役員の反対を押し切って巨額の投資をして失敗し、会社を傾かせた社長もいた。業績が低迷し、社員の給与もカットするが、自分の月200万円の給料も半分にしますという社長もいた(30年近い前の金額である)。

 一方、我が社もそうだが、内部昇格の社長は比較的「ワンマン度」が低く、社員のこともよく考えてくれる傾向があると思う。それほど多い例を見ているわけではないから確かなことは言えないが、おそらく自分も社員として働いた経験があるので社員視点を持っているからなのだと思う。上場企業なら社員数5,000人以上、中小企業なら創業家とは別の社長であれば「ワンマン度」も低いのではないかと思う。難しいが、「ワンマン度」が100%でも利他の精神の溢れた立派な社長もいるだろうから一概には言えない。

 かく言う私も社長の人となりを見分けられるかと言えばそんなことはない。前職では見事な裏切り行為をまったく予見できなかった。5年間に渡り経営を実質的に任せてもらい、6年目には代表権取締役副社長として病気の社長になり代わり会社の経営を担ったが、その陰で社長はM&Aによる会社の売却を進め、ある日突然雀の涙の退職金で首を言い渡された。そんな経験があるから転職時には社長の考えを大いに気にしたが、わずかな時間で見極められるものではない(が、たぶん今度は大丈夫)。つくづく難しいと思う。

 だが、大事なことは社長がどんな人かを見分けることではなく、やっぱり何があってもしっかり自分の足で立っていられることだと思う。会社や社長を当てにするのではなく、荒海に放り出されても、慌てず溺れない程度に泳ぐ力こそが大事だと思う。私も決して安堵することはなく、いざとなっても慌てない泳力を身につけたておきいと思うのである・・・

Eugen VisanによるPixabayからの画像 


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