新入社員が入社した。今年も新卒社員を迎える事ができた。さっそく社内研修を行ったが、外部から招いた講師の話を新入社員とともに聞きながら考えた。その講義では、「あなたにとって何が重要ですか」として、「家族・健康・仕事・趣味・時間」の中から選ぶというものであった。私は何となく、「①家族②趣味③健康④時間⑤仕事」の順番で選ぶかなと思った。新入社員の回答はバラバラで、それはそれで面白かったが、よくよく考えると違う側面が見えてきた。それは①と②は、③~⑤がなければ成り立たないという事である。
家族は大事といっても、病気であれば家族に世話の手間をかける。趣味もできない。時間がなければ家族と過ごす時間が維持できなくなるし、趣味も同様。仕事(=お金)がなければ家族の生活やましてや趣味など論外である。つまり、①または②を大事に思うなら、③〜⑤を大事にしなければならないという事になる。気持ちの上で重要な事と、実際に重要な事は異なっているという事になる。面白いものである。結局のところ、大事なものを優先するためには、まずはしっかり稼がなければならないという事なのだろう。
そういうこともあり、新入社員には研修で働く意義を伝え、働き方も伝えたいと考えている。どんな仕事でも「やり様」はある。ただやるだけではなく、人に真似のできないくらいのレベルでやる意気込みがあった方がいい。どんな仕事でもそれは可能だと思う。私がまだ子供の頃の思い出であるが、ある郵便配達員がいつも「〇〇さん、郵便です」と言いながら郵便を配達していたのを覚えている。返事などほとんどないだろうが、その人が配達にくると私もすぐに郵便を取りに行ったものである。
その人はまだ若い郵便配達員で、ある夏の日、いつものように「〇〇さん、郵便です」と言って配達していた彼を母は慌てて呼び止め、スイカを振る舞った。その人は恐縮しながらも、汗をぬぐいながら自転車にまたがったままスイカを頬張っていた。母は暑い夏の日に一生懸命配達している若い配達員に何かしてあげたかったのだろう。黙って配っていても誰も文句は言わないだろう。なのにその人は「〇〇さん、郵便です」と言って配る事で、母の、そして同じように近所の人たちの好意を勝ち取っていたのである。
そしてもう50年くらい前の話なのに、その人の事が私の心にしっかりと残っている。「人の心に残る仕事ぶり」と言えば大げさなようであるが、その人の仕事はしっかり私の心に残っているのである。ただ郵便を配るという誰にでもできる仕事を、その人は一軒一軒「〇〇さん、郵便です」と言って配る事で、誰にもできない仕事に変えてしまったと言える。「誰にでもできる仕事を誰もやらない方法でやる」「人の心に残る仕事をする」というのは、あくまでも理想であるが、そういう仕事をしたいという気持ちは常に私にもある。新入社員にもそんな心構えをもってほしいと思う。
「下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ。(小林一三)」とは、私も好きな言葉であるが、同じ事を言っている。ただ言われた事をやるのではなく、自らその仕事では日本一と言われるくらいのレベルでやる。そのためには熱意や創意工夫が必要になってくる。そんな風に仕事をしていたら、たちまち頭角を表すだろうし、当社であれば間違いなく未来の社長候補である。ただ、社会人デビューしたての若者にどこまでこの思いが通じるのだろうかという疑念がなくはない。
かく言う私も37年前に社会人デビューした時は、まさに「①家族②趣味③健康④時間⑤仕事」の順番通りの考え方であったので(ひょっとしたら⑤なし⑥なし⑦仕事くらいだったかもしれない)、とても自慢できたものではない。もしもあの頃の自分と話ができるのであれば、上記のような話をして性根を叩きなおしたいと思う。通じるか通じないかとあれこれ考えるのではなく、あの頃の自分に言い聞かせるつもりで、我が社の新入社員に語ることにしようか。いずれ社会に出る息子にも話したいと思うし、いいと思う事は疎まれても話すことにしようと思うのである・・・
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