2025年7月24日木曜日

踏み出す

この道を行けばどうなるものか、危ぶむなかれ。

 危ぶめば道はなし。 踏み出せばその一足が道となる。

  迷わず行けよ。 行けばわかるさ。

一休宗純

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 「嫌ならやめればいいじゃないか」というのは昔からの私の考えである。「そうはいかない」という考えもわからないではないが、基本的な考えは変わらない。最初にそれをはっきりと言葉にしたのは、銀行に入って3年目くらいの時であったと思う。業績不振から担保不動産を処分して借入の返済をしていただく事になった取引先の役員に言われた言葉がきっかけだった。当時下っ端の私にはわからなかったが、おそらく私の上司と借入の返済を巡っての厳しいやり取りがあったのであろう、担保不動産の売却手続きに同行した私に不満をぶつけてきたのである。

 曰く、「銀行の仕事は嫌な仕事だと聞いている」、「知り合いの銀行員も子供には継がせたくないと言っている」等、いかに銀行の仕事が嫌な事かという事を私に告げてきたのである。挙句に私に同意を求めてきた。「あなたもそう思っているのではないですか」と。相手が嫌味を言ってきている事は感じていたし、それに対する反発心も確かにあったが、私は純粋な気持ちから答えたのである。「仕事は嫌ではないですよ。嫌なら辞めますから」と。子供に継がせたくないような仕事ならなぜそれを続けるのか。「家族のため」というのは言い訳にしか過ぎないと思う。
 
 もちろん、そう簡単に辞めるわけにはいかないという事情もわかる。すぐに他に「嫌ではない仕事」が見つかるわけではないだろうし、見つかったとしても収入が落ちるならどうしようという問題もある。選択肢がなければ嫌であろうと何であろうと辞めるわけにはいかない。家族持ちであればなおさらである。私であれば、それなら「嫌だと思わない方法」を考えるだろう。仕事の中に何か楽しみを見つける(これは比較的得意である)とか、嫌な要因を自分なりに解消する努力をするとかするだろう。

 嫌なものをなぜ我慢するのか。その理由に自分自身納得できないのであれば、「やめる」というのが私の基本的な考え方である。そういう考え方に基づき、このたび結婚生活も終わりにする事にした。妻の私に対する「他人扱い」にもう耐えられなくなったのである。おそらくその原因は私にあるのだと思う(自覚はないがそうなのだろう)。ただ、明確なところはわからないし、話し合ってそれを改善してもらおうという気にもなれない。この秋、子供たちと妹夫婦とでハワイに行くと告げられ、それが決定打になった。私は誘われる事もなかったのである。

 この状況で家族を続けていく意味はあるのだろうかと自問してみるが、答えは「否」である。私にその気はあっても妻にはない。それを非難するのも意味はないし、これ以上他人扱いされてまで一緒に暮らす意味もない。そうなると、残るは「嫌ならやめればいい」という答えしか残らない。そうしてまずは別居することになった。子供たちを追い出すわけにもいかないので、私が家を出る事にしたのであるが、腹を決めて行動に移せば物事は意外と進んでいくものである。

 銀行員時代、50代半ばでたいがいみんな子会社か取引先かに転籍するかして銀行を去る事になっていた。私はその前に独自に探して出ようと思っていたが、なかなか踏ん切りがつかなかった。それはどこかで面倒な事を先送りする気持ちが強かったからである。しかし、いざ実行してみると何の事もない。なぜぐすぐず先送りしていたのか自分でもあきれるくらい簡単な事であった。別居も同じである。ここ何年も迷っていて、理由をつけては先送りしてきたが、もう行動に移そうと考えた。行動に移してみれば実に簡単であった。

 私の銀行員時代の同僚は、今も関連会社などに残っている者が多い。処遇によっては満足していて、それはそれでいいと思う。しかし、自らの境遇を嘆いている者もいる。それはその時に勇気をもって飛び出さなかったからであり、「もう少し考えよう」とか「どうしようか」などと言っている間に時間が過ぎてしまった結果である。私の場合は偶発的に出ざるを得なかったという理由なので偉そうな事は言えないが、結果的に行動したのは正解であった。基本的に「迷ったら動く」という考え方が大きいが、(あまり好ましくない)行く末が予想されるのであれば、思い切って動くべきだと思う。

 今の時代は恵まれている時代である。転職するにしても選択肢は多い。年齢を重ねると難しくなるが、それでも贅沢を言わなければ生きていけるくらいは稼げるであろう。離婚も社会的に悪影響があると言われたのも過去の話であるし、子供との縁が切れるわけでもない。そうであればもう迷う話ではない。実家の両親もこの頃老いて危なっかしいし、同居すればその分安心するところもある。いいタイミングと言えばいいタイミングなのである。あれこれくよくよ考えるよりも、前向きに自分の未来について考えたいと思うのである・・・

Greg ReeseによるPixabayからの画像


【本日の読書】
 草枕 - 夏目 漱石  監督の財産 (SYNCHRONOUS BOOKS) - 栗山英樹  カラー図説 生命の大進化40億年史 古生代編 生命はいかに誕生し、多様化したのか (ブルーバックス) - 土屋 健, 群馬県立自然史博物館  イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ (光文社古典新訳文庫) - トルストイ, 望月 哲男





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