2025年7月20日日曜日

息子と酒を飲む

 長男が生まれた時、ゆくゆくは息子とやってみたい事として二つを思い浮かべた。それはキャッチボールと酒を飲む事である。キャッチボールはどの時点で達成しただろうかと考えると微妙である。まだ幼稚園児くらいの時に家族で公園に行き、よくボールとバットで遊んだ。まだゴムのボールで、手が届くくらいの距離で投げ合ったのはキャッチボールになるのだろうか。個人的には小学生になって少年野球を始めた息子とグローブをはめて軟式ボールでやったのがそれであると考えている。誘うと素直についてきて、投げるボールもだんだん早くなっていった。

 中学生くらいになるともうそんな機会がなくなったが、息子が二十歳になった今年、とうとう二つ目の目標が実現した。ちょうど妻と娘が2人して出掛け、私と息子とが留守番になったのである。好機到来とばかりに「飲みに行くか?」と誘ったところ、「あまり飲めないけど」とついて来た。どこへ行こうかと考えたが、近所で歩いていける「土間土間」がいいという息子の意見を取り入れ、2人で飲みに行った。最近はどこも半個室の席が多い。我々もそんな半個室の席に案内される。改まって2人だけで向き合って座るのも新鮮である。

 大人としてはいつものように「とりあえずビール」と頼もうとしたら、息子は何やらサワーを頼んだ。「そこはビールだろうが」と思うも、初めてのことであるし好きなようにさせる。つまみを自由に頼ませたら、いきなりチャーハンを頼む。このあたりはまだ飲むより食べる方が優先のようである。唐揚げや卵料理は私も好きなので異論はない。半個室とは言っても仕切りなどなく、あたりの酔った人たちの大きな声が響いてくる。居酒屋であるし、静かなところでゆっくりというわけにはいかない。父子2人だけの飲み会は、まわりの喧騒とは裏腹に静かなものである。

 話題は大学の事から始まる。40年前、私が学生の頃は文系の学生は授業に出ないのを良しとしていた。そういう風潮に抗って、私は週12コマの授業に出ていた。ラグビー部の同期はみんな5コマ程度だったから、みんなに変人扱いされた。聞いたところ息子は14コマ出ていると言う。面白い授業もいくつかあるようで、それはいい事だと思う。大学の勉強は将来何に役に立つかもわからない事を学べる贅沢なひと時である。スティーブ・ジョブズのカリグラフィーの授業の話は有名であるが、息子にも授業を楽しめと伝えた。

 息子は中学の時に練馬区が後押ししている制度を利用してオーストラリアに1週間ホームステイしている。その時の経験が強烈だったらしく、英語に対する学習意欲が強い。学生のうちに留学したいと常々言っている。「是非行け」というのが私のアドバイス。私には学生時代にそういう考えがなかったのが残念であるが、息子には是非行ってもらいたいと思う。さらに就職するなら海外大学院へ行かせてくるところを選ぶべしとも伝えた。海外大学院でMBAを取れば社会で生きていく上での武器になるだろう。

 また、起業するならいきなりするのではなく、一旦大手企業に就職した方がいいとも伝えた。私の考えだが、大手企業で3年ほど働けば社会人としての基礎が身につくし、組織というものもわかるようになる。何よりベンチャーにはない「信用」を出身大学と大手企業での就業経験が補ってくれる。それで安泰というわけではないが、私はあまりにも学生時代そういうことに無知すぎたこともあり、息子には知識として教えておきたいと思ったのである。これからどうなっていくかわからないが、「知は力なり」である。「知っている」という事は大きなアドバンテージになると思う。

 息子は母親とは仲が良い。私はどちらかというと自立心が強すぎて親(特に母親)とは距離を取っていた。今その距離を毎週訪問して穴埋めしているが、母親との会話で得られるものは限られている。少なくともビジネスマンとしての基礎知識は私の方が教えられるところである。せめてもの父親の存在感の証として、そういう話は語っておきたいと思うのである。いつかそれが息子が何かを決断する時の役に立てば、それが親父の存在価値だとも言える。初めての息子との飲み会はこんな具合だった。息子は最初の一杯以外は飲まなかったが、それもまた良し。そこは祖父から親父へと続く家系の遺伝を受け継いだのだろう。

 思いもかけず、長年の目標が叶ったひと時であった。しかし、これが第1回。これから折に触れて父子でサシ飲みをして語り合っていきたいと思うのである・・・


Engin AkyurtによるPixabayからの画像

【今週の読書】
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