前回、ドラマ『THE DAYS』を観て心理的安全性について感じる事を記したが、今回は部下のあり方について感じた事を述べてみたい。ドラマの総理大臣(菅直人元総理がモデル)は、未曽有の危機の中、専門家たちが思うような意見を出せず、イライラを募らせ、結果的に怒鳴ったり詰問したりを繰り返していた。今で言うパワハラであるが、部下の方としても対処の仕方はあると思えた。人間、どうしても怒鳴られれば萎縮する。完璧な答えを返そうと思えば思うほど慎重になるし、そうすると益々歯切れは悪くなるし、それはすなわち聞き手からすると不信感へとつながる悪循環である。
まずは怒鳴られても怯まないのが一番である(と言っても気の弱い人には難しいかもしれない)。頭に血を上らせて怒鳴り返すのは論外だが、心の中で深呼吸し、冷静に言うべき事を返すのがいい。その際、「絶対間違いないか!」「100%正しいのか!」と詰められる事はよくある。そこも冷静に、そもそも「絶対という事はあり得ない」と答えを言う前に納得してもらう必要がある。当時の状況は誰もが経験した事のない状況なわけで、そもそも絶対という事がわかっていれば迷わず行動できるわけである。「より可能性の高い回答しかできない」と私なら怯まず答えるだろう。それで不満なら首にしてくれと。
そもそも絶対とは言えない可能性のうちどのリスクを取るのか。それこそ最高司令官たる総理大臣の責任である。それを思い出してもらえるよう、冷静に答えたいところである。この「冷静に」というのも重要で、私も銀行員時代、債権回収の場で激高する経営者相手と対峙したことがある。怒鳴りつけてくる相手に対し、終始穏やかに冷静に話をし続けたところ、相手もだんだん落ち着いてきて、最後は互いに穏やかに話をして別れたのであるが、こちらが冷静であれば相手も冷静さを取り戻すのではないかと思う。
激高する相手に対し、またはイライラして厳しい口調で詰問してくる相手に対し、怯まないでいられるには多少の勇気が必要かもしれない。どうしても顔を背けて逃げたくなるのが人情であるが、そこで面と向き合うのは勇気がいる事かもしれない。私はもともとラグビーをやっていたせいか、あまりビビるという事はこれまでになかった。私が社会人になった時、最初の上司は典型的なパワハラ上司であった。本来、課の№2的存在である主任さんもよく怒られ、立たされていた。新入社員の私はそのパワハラ上司の目の前に座らされており、私とパワハラ上司との間に主任さんが長時間立たされていて、その居心地の悪さに困惑した経験がある。
その時の主任さんも気の弱い方で、やはり蛇に睨まれた蛙よろしく、パワハラ上司の詰問に黙り込む事がしばしばであった。黙り込まれるとよけいにイライラして回答を強い口調で求める。そうすると萎縮して声も小さくなり、自信のない回答になる。するとパワハラ上司はイライラして「はっきりしろ!」と怒鳴る。まさにドラマのような悪循環であった。隣で聞いていた私は、「間違ってもいいからはっきり自分の意見を言えばいいのに」と思っていたものである。毅然とした態度こそが、相手に対する安心感を与えるものではないかと思う。
ドラマでは総理に報告すべく待ち構えていた関係者が歩いてくる総理に恐る恐る話しかける。「今聞かないといけない要件か!」と一喝されて、その関係者は怯んで「後でもかまいません」と引きさがってしまう。私なら、「こういう事態ですので、歩きながらでも聞いてください」と食い下がるだろう。どういう内容のものだったかはわからないが、本当に後でもいいような報告なら、総理の側近に報告して伝えてもらえばいいのであり、そうするべきである。わざわざ報告しようと思った内容であるなら、無理やりにでも報告するくらいの度胸がないとダメではないかと思う。
そもそも上に立つ者がそんな態度ではいけないので、それがすべてであるが、運悪くそういう器量の狭い上司に当たってしまった場合は、殴られてもいい覚悟で堂々と報告すればきちんと対応してもらえるものだと思う(実際に殴られる事はまずないだろう)。東電の首脳陣も総理の勢いに怯んで海水注入中止を現場に指示する。それに対して現場責任者の吉田所長は面従腹背の態度で、中止する振りをしながら実際は注水を続ける。結果的にそれが良かったようなのであるが、そういう度胸のある人間が現場にいたから良かったものの、東電首脳陣のような「言いなり君」ばかりだったらどうなっていたのだろうかと背筋が寒くなる。
パワハラ上司の下で、仕事では何も言い返せない2年目の若造だった私だが、夏休みの取得については、怯む先輩を差し置いて1人パワハラ上司と交渉し、上司から指定された7連休を拒否して9連休を勝ち取った。その時も自分の意見を怯むことなく伝えた結果であるが、その時にパワハラには「怯むな立ち向かえ」という教訓を得たのである。今はパワハラも指導が入る良い時代になったが、それに甘んじるのではなく、仕事では怯まず立ち向かう気概が部下にも必要だと思うのである・・・

