【原文】
子曰、禹吾無閒然矣。菲飮食、而致孝乎鬼神、惡衣服、而致美乎黻冕、卑宮室、而盡力乎溝洫。禹吾無閒然矣。
【読み下し】
子(し)曰(いわ)く、禹(う)は吾(われ)間然(かんぜん)すること無(な)し。飲(いん)食(しょく)を菲(うす)くして、孝(こう)を鬼(き)神(しん)に致(いた)し、衣(い)服(ふく)を悪(あ)しくして、美(び)を黻冕(ふつべん)に致(いた)し、宮(きゅう)室(しつ)を卑(ひく)くして、力(ちから)を溝(こう)洫(きょく)に尽(つ)くす。禹(う)は吾(われ)間然(かんぜん)すること無(な)し。
【訳】
先師がいわれた。
「禹は王者として完全無欠だ。自分の飲食をうすくしてあつく農耕の神を祭り、自分の衣服を粗末にして祭服を美しくし、自分の宮室を質素にして灌漑水路に力をつくした。禹は王者として完全無欠だ」
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孔子はしばしば過去の君主を称えている。そのほとんどが徳のある人物とされている。いわば個人の資質に着目したものが多く、行動に着目しているのは少ないような気がする。今回は、具体的な行動を示して褒めたたえている。自分の利益のためではなく、民の利益のために行動する。君主はいずれもそうであって欲しいと思うが、あえて強調するという事は、君主は自分の利益のために行動するのが当たり前だったという事かと思う。絶対的な権力を手に入れれば、人間は傍若無人になり、好き勝手に振る舞うものだったのだろう。
日本の天皇も「かまどの煙」で有名な仁徳天皇の例が挙げられる。丘の上から国を見渡した仁徳天皇が、民家の煙が立っていないことに気付き、民が貧しいからだと判断して3年間徴税を禁じる。それ以後、自身も衣服や履物は破れるまで使用し、屋根の茅が崩れても葺かないという徹底した倹約ぶりで、3年後、人家の煙は盛んに上っているのに満足して課税を再開したが、民も喜んでこれに応え、国も栄えたというものである。実話なのかどうなのかはわからないが、そういういかにもなエピソードが残っているという事は、何らかのそんな実例があったという事なのかもしれない。
法人でも業績が悪化すると、社長自らが自分の役員報酬を下げて業績(利益)回復を図る事がある。非上場の企業でも銀行からの借り入れがある場合は、業績が悪いと次の借り入れに影響するかもしれない。自分の役員報酬を下げる事で会社の利益を維持し、その姿勢を示す事で銀行の印象も良くなる。社長は大概社員よりも高給を取っているから当然という考えもあるが、それをきちんと実行に移せるというのも大事だと思う。いわゆる「経営責任」であるが、責任ある立場に就いている者としては、そうした行動は社員の信頼獲得に繋がるし、そういう行動が取れるようでありたいものである。
銀行員時代、やはり会社の業績低迷を受けて、社長が月額200万円の役員報酬を半分に下げると報告してきた例があった。ただし、全社員の給料もカットすると報告してきた。もともと小規模な中小企業でもあり、社員の給料も多くはない。それをさらに下げるというのだから、社員さんも気の毒だなと思ったものである。半分ではなく、1/4にしたらいいのにと漠然と思ったものである。その後、その会社がどうなったのかはわからないが、そもそも規模からして200万円もの役員報酬を取るのではなく、もう少し内部留保に努めたらいいのにと思ったのを覚えている。
社長というのは、社員にあまり給料を払いたがらないものなのかもしれない。私も前職の不動産業時代、転職してまず社員の給料が低い事が気になったので、よく4月の昇給時に給料の引上げを提案したが、社長の渋る事、渋る事。もちろん、当時業績が低迷していて、社長自身も役員報酬を下げていた事もある。給料は上げると簡単には下げられない(簡単に下げる社長もいるが)。慎重になるのも頷けるが、薄給もまた罪だと思う。生活もある事だし、そこは考えないといけない。私も取締役だったから懸命に業績向上策を考えて実行した。結果的に6年連続で増収を達成したので、何回か従業員の給料を社長の抵抗を押し切って実行したものである。
国の指導者であれ会社の経営者であれ、己の事しか考えない者はその地位にふさわしくない。しかし、中小企業では下の者から社長にモノ言うことは難しく、「搾取されている」と言ってもおかしくないところもかなりあると思う。自由にできるからこそ、そこに民を思う気持ちをこめなければならない。前職の社長もそのあたりは足りていない典型であった。幸い、現職では社長は民の事を思う指導者であり、私もやりやすい。あとは会社をもっと発展させ、私ももっと役員報酬をもらいたいと思う。我が社の社員のかまどからもうもうと煙が立ち上るようにしたいと思うのである・・・
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PexelsによるPixabayからの画像 |
【本日の読書】


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