就職の時、会社選びで意識していたのは、「この会社に入れば安泰だ」という考えは持たないということであった。「どんなに一流企業でも将来はわからない」ということは当たり前であるが、当時は(今もだが)就職人気ランキングの上位企業がもてはやされていたが、そんなもので企業を選びたいとは思わなかった。それは当時、凋落が取りざたされていた企業が、かつては日本を代表する企業であったことを考えれば、学生でもわかることであった。そうして銀行に入ったが、入った時から「銀行が倒産しても他で生きていかれるようにしよう」と意識していた。「銀行が倒産する」ことなど当時は考えるのも愚かであったが、結局、当時入った銀行の名前はもうないことからもそれは間違った考えではなかった。
そして意識していたのは、常に外に出る覚悟であった。いつ何時銀行を辞めてもいいようにと考え、当時の私は財務知識をしっかり身につけておこうと考えた。それも実際の実務を踏まえたものである。銀行員はいろいろな会社の決算書を扱うが、その決算書がどんな過程を経て作成されているかはほとんどわからない。数字の根拠がわかっているのといないのとでは企業分析も精度が違ってくる。粉飾決算だって見破るにはそういう理解がないとダメである(それでも見破るのは難しいのだが・・・)。
そういう意識で身につけた財務知識は、その後大いに役に立ち、今でも自分の助けになっている。経理の仕分け実務などまったくやったことはないが、それでも現在部下の相談に乗り、指示を出せるのはその成果である(それは銀行員なら誰でもできることではないし、むしろできない人の方が多いと思う)。「芸は身を助く」というが、これは仕事でもラグビーでも真理である。さらに、企業再生の観点からいろいろな業績不振企業の相談に乗り、対応を考えていたのは、「いずれ役に立つかもしれない」という思いもあってだったが、それが現在中小企業の役員になって役立っている。
そんな私だからか、会社の仲間にもそういう意識を持ってもらった方がいいと考えている。経理ならどこの会社にもある。女性であれば結婚して配偶者の転勤などで転職しないといけなくなるかもしれない。その時、「どんな会社にもある」経理ができれば、転職先のレパートリーは広がる。だから我が社の事務だけを覚えて満足するのではなく、資格であれば簿記2級くらいまでを取得するように勧めている。「雇われる力」を磨いておけば、いざという時に「身を助ける」かもしれないからである。
「雇われる力」があれば、どこででも職を得ることができる。それは別に大企業に限るわけではない。むしろ、転職するのであれば企業規模は問わないくらいの意気込みがあっていいと思う。大企業で稼ぐ年収600万円と中小企業で稼ぐ600万円に違いはない(まぁ、退職金とか福利厚生とかを考えると必ずしも同じとは言い切れないだろうけど)。それならむしろ中小企業で700万円、800万円稼いだ方がいいと考えるべきなのではないかと思う。要は会社に頼らず、自立して雇われる事を意識するべきであると思う。
世の母親たちは、我が子を一生懸命塾に通わせ、勉強させていい高校、いい大学と目指させる。その最終ゴールは「いい会社」であるが、名の通った大企業に就職すれば、親としては「目標達成」だろう。だが、当人にとってはそこがスタートである。長い社会人人生何があるかわからない。「入って安心」というわけにはいかない。無事、定年まで勤め上げれば御の字であるが、途中で船が沈没するかもしれない。その時、助けを待ってただ浮き輪につかまっているのではなく、自ら力強く泳いでいける力があった方がいいだろう。自分はそんな考え方でやってきた。
そういうわけで、同じ部の若手には、「(簿記などの)資格を取れ」と常日頃言っている。どこで役に立つかわからないからと。幸い、我が社の総務部は人事も経理も総務も兼務する「総合総務部」と言える総務部である。「経理だから経理だけ」ではなく、人事の仕事でもやろうと思えばやれる。覚えておけば、どこかの中小企業の人事部で働けるかもしれない。目の前の仕事を一生懸命やるのは大切であるが、その目の前の仕事がどこか見知らぬ未来に繋がっているかもしれない。だから、ただ「やらされている」のではもったいない。会社のためではなく、「自分のため」にやりたいものである。
新卒で大企業を目指すのは悪くない。むしろ、大企業の方が基本的なマナーや仕事の進め方や組織など、社会人としての基礎固めにはいいと思うし、何より「箔」がつく。転職して無名の中小企業に行ったとしても、「元〇〇出身」という「箔」があれば軽く見られないというメリットがある。会社は無名でも個人は大企業に採用されるほどだったという「箔」の効果は大きい。しかし、そこに一生しがみつくのではなく、何があっても困らないよう「牙」を研ぎ続ける努力は惜しむべきではない。
大企業に入って「太った豚」で満足するよりも、「雇われる力」を磨き常に「やせた狼」であり続けたいと今も思うのである・・・
Total ShapeによるPixabayからの画像 |
【本日の読書】
0 件のコメント:
コメントを投稿