先日、会社の受付から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。何事かと思ったら、帰ってきた部下の女性が郵便屋さんが来ていたのだと教えてくれた。なんでも我々の会社が入居しているビルを担当している郵便屋さんで、もう顔馴染みなのであるが、こちらの名前も覚えていて来るたびに愛想がいいのだという。郵便物の受け取りのほんの短い時間であるが、受け取ったこちらの気分をちょっとよくしてくれて帰って行く。話を聞いてどんな担当者なのか興味を持った。
それと同時に思い出したのが、子供の頃にやはりいつも配達に来ていた郵便屋さんである。私がまだ小学生の低学年の頃だから昭和で言えば40年代の話である。その郵便屋さんは、自転車で配達に来ていたが、一軒一軒郵便物をポストに入れる際、「○○さん、郵便です」と声を掛けて配達していたのである。家の中からでもその声は聞こえ、私も何度かすぐに郵便物を取りに行った記憶がある。そんなだからか、私の母を始めご近所では評判の郵便配達人であった。当時まだ20代くらいの若いイケメンの男の人であったが、評判だったのはイケメンだったからだけではない。
今でも強く記憶に残っているのは、ある夏の暑い日、母はその郵便屋さんにスイカを食べさせたことである。あらかじめ来たら食べさせようと待ち構えていて、近所で「○○さん、郵便です」という声が聞こえて来たのを合図に外へ出て捕まえて「食べていきなさい」とスイカを手渡したのである。その郵便屋さんは、汗をかきながら美味しそうにスイカを食べていた。母も誰彼ともなくスイカを食べさせていたわけではなく、その人だから食べさせたのである。普通は、黙ってポストに投函して終わりである。その人がなぜ、「○○さん、郵便です」と声をかけていたのか今となってはわからないが、聞いてみたかったなと今でも思う。
今でも郵便配達は日常であるが、そんなことをしている郵便配達人は見たことも聞いたこともない。だが、同じ仕事でもやり方1つで大きく違うといういい例だろう。その人がなんで郵便局に勤めたのか、なぜそんな声掛けをしたのか、今どうしているのか(たぶんとっくに定年退職しているだろう)とても興味深い。郵便配達という誰でもできる仕事である。それなのに人の心を動かすようなやり方でやれるというのは凄いことである。たぶん、仕事を楽しんでやっていたのではないかと思う。『仕事は楽しいかね』でも感じたことだが、「面白い仕事があるわけではない。仕事を面白くすることができる人がいるだけ」なのだろうと思う。
8月に転職して以来、私は「何をしたら良いですか」という質問を誰にもしていない。そんなことは自ら考えることだからである。もちろん、新人とか若い人なら別だが、ある程度社会人経験を積んだ者であるなら、そんな事は自分で考えることだと思うからである。自分が期待されている事はもちろん入社時にわかっている。だからそれを徹底するとともに、合わせて自分ができることはないか、自分が何をしたら組織に貢献できるのかを問うていけば自ずとやるべきことは見えてくる。「何をしたら良いですか」などと質問している暇などない。
会社としてはこれから何をすべきか。それを考え、そしてそのために何か自分ができる事はないかと考える。そうすれば自ずとやることは見えてくる。そうして見えてきた事をやるのは楽しい。やらされているのではなく、自らやる。だから面白く、楽しい。面白くない仕事をいかに面白い仕事にしていくか。「仕事がつまらない」、「楽しくない」、「苦痛だ」という言葉を聞くとそういうやり方をしてみればどうだろうかと思えてならない。かの郵便配達やさんは、仕事が嫌で嫌で堪らないとは思っていなかったはずである。母からもらったスイカを食べて帰った日は、きっと充実感に満たされて1日を終えたのではないかと思う。
郵便配達が面白いと思うだろうかと考えてみると、どちらかと言えば否定的に思える。だが、それもやり方次第だろう。自分が配達すると、配達先の人が喜んでくれる。そんなだったら仕事も楽しいだろう。今やっている仕事が楽しくないという人は、やっぱり楽しくないやり方をしているのだろうと思う。自分もどんな仕事であれ楽しくやれるようにしたいと思う。今の仕事ももちろん楽しいが、さらに自分の部下にも楽しく仕事ができるように働きかけたいと思う。そんなことを考えると、ますます明日職場へ行くのが楽しみになる。残り少ないサラリーマン人生、そんな風にしてさらに充実させていきたいと思うのである・・・
Michal JarmolukによるPixabayからの画像 |
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