2016年10月27日木曜日

論語雑感(学而第一の5)

子曰。道千乘之國。敬事而信。節用而愛人。使民以時。
(いわ)く、千乗(せんじょう)(くに)(おさ)むるには、(こと)(つつし)みて(しん)あり、(よう)(せっ)して(ひと)(あい)し、(たみ)使(つか)うに(とき)(もっ)てす。
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ここでいう「乗」とは、兵車を数える単位だとのこと。千は数というより、「たくさん」の意味であろうか。つまり沢山の兵車を擁する国=大国ということらしい。そういう大国を治めるのに必要なことが3つある、というのがこの言葉。読んでみれば、大国ならずとも、小国でも企業でもある程度の組織になら当てはまるのではないかと思わせられる。私はビジネスマンゆえ、ビジネス的に考えてみた。

まず千乗の国を治める秘訣として「やる事(国であれば政治)」を「つつしんで=慎んで=慎重に」行うということ。企業であれば「事業」を慎重に行うということだろう。そしてそれにより信用を得るということになるのだが、これは実に当然のことである。以前、銀行員時代に担当していた問題企業があった。その実例にたとえるとわかりやすい。

その会社、本業は順調だったのであるが、順調すぎて暇を持て余した社長が株式投資を始めた。はじめは個人のお金で。そして段々面白くなってきて、次第に取引金額も大きくなってくる。ところが、やがて信用取引で失敗してロスが出る。それを取り返そうと深みにはまり、気がつけば会社のお金をつぎ込み、足りなくなって銀行から借り、さらに借りようと粉飾決算をしてお金を借りた。そしてとうとう資金繰りが悪化して事態が発覚したのである。本業は順調だっただけに、突然の民事再生法申請に従業員は戸惑い、怒ったが、もはや後の祭りであった。

また別の会社だが、業績不振に陥り、利益改善のため社長は従業員の給与カットを実施した。社長も当然の如く自分の給与をカットした。それまでの月300万円を200万円に減らしたのである。従業員の給料はそもそも少ない。気の毒なほどであるが、それをさらに削減。もちろん社長も給料をカットしているが、そもそもの金額が大きい。もっとカットして100万円にしたところで、それでも高級だ。そこまで落とせば社員の給料カットもわずかばかりで済む計算であった。

「民を使うに時を以って」というのは、使役などを課す時に農作業時等使われる者に都合の悪い時を選ばないということのようである。これについては、以前読んだ小説『あの日にドライブ』を思い出した。ここで主人公のタクシードライバーは、元銀行員なのであるが、銀行を辞めるきっかけとなったのが、部下をかばった出来事であった。それは、部下が婚約者とその両親との食事会を控え、早く帰ろうとした時、帰るのを良しとしない支店長に部下をかばって意見をしたのである。

我々日本人は集団行動の民族である。それはそれで悪くないが、それが高じて「付き合い残業」という現象が起こっている。つまり、「仲間が働いているのに先に帰るのは良くない」という考え方である。合理的に仕事が終われば帰ればいいのだが、日本人の気質として仲間が忙しいなら手伝うのが当たり前で、そうでなければ「自分も同じように仕事をすべき」となるのである。それはそれで、日本人の美徳であるが、特別の用事がある時でも「帰りにくい」という弊害につながる。

私もやはり同じような経験がある。どうしてもという時は、事前に上司に相談し、了解をもらいその上でひっそりと「早退」(といっても定時は過ぎている)したものである。理解ある上司なら気楽に相談できるが、そうでなければ大変である。嫌みの嵐を耐えに耐えて耐え忍び、それでも意思を曲げずにひたすらお願いして了解してもらったものであるが、当然その上司にもその時の支店にも忠誠心など湧きもしなかった。

 つまり企業経営においても、本業に真面目に邁進し、事何か起これば従業員の負担をなるべく軽減して責任は経営者が負い、さらには日頃からプライベートに過度な影響がかからないように働ける環境を作っておく。これこそが、従業員の忠誠を高め、いい会社を作れる秘訣であると言えなくもない。それ以外もあるだろうが、上記3つは基本であろう。

 人間社会の真理というものは、月日を経ても変わらないものなのだろう。あらためてそう感じる言葉である・・・


【本日の読書】

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