2016年6月19日日曜日

『あの日にドライブ』に見る働き方

 最近、「働き方」を考える機会がよくある。映画や小説などで、主人公の働く姿を見ていて感じるのである。前回は、映画『マイ・インターン』であったが、今回は小説『あの日にドライブ』である

 主人公は、43歳のタクシー・ドライバー。もともと銀行員であったが、理不尽な支店長の叱責から部下を庇い、それが元で退職してしまう(どういう経緯だったのか元銀行員としては興味があるのであるが、ここでは曖昧なままである)。主人公は、初めこそ自分に自信があり、再就職などわけないとタカをくくっている。外資系企業などを念頭に、それまで彼の働き方を評価した誘いをすべて断ってしまう。中小企業に「都落ち」するのはプライドが許さなかったのであろう。

 しかし、世の中そんなに甘くない。しかも銀行員が考えるほど、元銀行員は世の中で必要とされていない。間もなく、主人公は現実を嫌という程味わうことになる。就職よりもと選んだのは、公認会計士。勉強しながらも家族持ちにとっては生活費を稼がなければならない。とりあえずりつもりで、主人公はタクシー・ドライバーになる。ところがこれが激務。15万円の売り上げノルマがあり、なかなか稼げない主人公は、5日のうち2日の勤務日は長時間働く羽目になり、タイミングによってはほぼ24時間勤務となる。当然、勉強などままならない。

 まず、読んでいて思うのだが、40代になって資格を取って独立しようという考えがそもそも甘い。資格は頑張れば取れるかもしれないが、その年齢で公認会計士事務所に行っても、採用する方としては20代の若者の方がいいだろう。それを覆すには、よほどの「実績」がなければならない。さらにたとえ採用されても20代の若者と同じスタートになるだろうし、「年下の上司」もいるだろう。「資格さえ取れば」という考え方をする人は多いが、自らの置かれた立場と環境を考えないといけない。

 やがて主人公は、月に何日か不定期で出勤してくる大ベテランの高齢ドライバーが、難なくノルマをこなしているのに気づく。そしてある日、後をつけて病院の前で夜勤明けの医師を乗せて行くことを発見する。それを機に、カレンダーを眺め大安の日には結婚式場からの客を狙うといった大ベテランの「手口」に気づき、次第に独自の工夫を重ねてノルマをクリアできるようになっていく。何の仕事であっても、こうした「創意工夫」の余地はあり、これができる人間こそ本当に仕事ができる人だと言えると思う。

 「創意工夫」に費用なのは、仕事自体に対する認識と観察だろう。ノルマ達成にはなるべく長距離客を乗せるようにしたい。では、世の中でどのような客が長距離を利用するのか。また長距離でなくとも、無駄に走る時間を減らし、なるべく賃走時間を多くしたい。そのためには駅前で長時間並ぶ(しかもようやく乗せたら短距離では悲劇だ)のではなく、もっと効率のいいやり方を考えないといけない。「そのためにはどうするか」。主人公は、頭を使ってそれを発見していく。

 タクシー・ドライバーの仲間たちは、ギャンブルをやったりする者が多く、「創意工夫」に対する意欲など欠片もない。何も考えずに、目先だけやり過ごせばいいという者に成長などという言葉は無縁だ。それは普通のサラリーマンであっても、ただ真面目に働いているだけなら同じである。ここに登場するその場しのぎのドライバーたちのようには誰もなりたくないだろうが、50歩100歩の存在になっているかもしれない。どんな仕事であっても、「どうしたらうまくできるのだろうか」と自問自答しながら、人と違った「創意工夫」をしていかなければ、「その他大勢の一人」から抜け出すのは難しいだろう。

 小説とはいえ、立派な仕事のヒントになるなと読みながら感じた。自分の仕事に対しても、常に心したいと思うことである・・・












【本日の読書】
 
    

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