百田尚樹の本としては3冊目となる 「BOX!」、を読み終えた。これも前2冊とはまったく異なるジャンル、ボクシングの話である。
ボクシング・ドラマといえば「あしたのジョー」や「がんばれ元気」といった往年の名作漫画や映画の「ロッキー」シリーズが思い起こされるが、これは高校アマチュアボクシングであるという点、そして何よりも活字で表現されるという点で大きな違いがある。また、高校生のスポーツといえば、バスケットボールの「スラムダンク」、野球の「ドカベン」などが個人的には思い出深い。こうした思い出に残るスポーツドラマの名作には、ある種の共通点があるような気がする。それを「あしたのジョー」と「スラムダンク」と「BOX!」とで比較してみたい。
この3作に共通しているのは「主人公の成長」だ。「あしたのジョー」の矢吹丈は丹下段平に見出されてボクシングを始める。「スラムダンク」の桜木花道はバスケ部のキャプテンの妹晴子に誘われてバスケを始める。「BOX!」では女の子の前で中学時代のいじめっ子に殴られて恥をかいた木樽優紀が、親友のカブちゃんを頼ってボクシングを始める。
そしてトレーニング。矢吹丈は少年院でひたすらジャブを打ち(「打つべし、打つべし」は有名なセリフだ)、桜木花道もおふざけが入りながらも肝心なところではシュート2万本の練習なんてのが出てくる。木樽優紀も学校での練習に加えて、早朝と夕食後のトレーニングでメキメキ腕を上げる。
次にライバルの存在。矢吹丈には力石徹という格上のライバルがいて、少年院からプロのリングに場所を移し、バンタム級での対決は前半のクライマックスだった。そして力石の死後はしばらくその影響を引きずる事になる。桜木花道には天才流川楓がいて、チームとしてはクライマックスに強豪山王高校が登場する。木樽優紀には親友でもある天才ボクサー鏑矢義平がいて、さらに無敵の超高校級ボクサー稲村和明がいる。
そして何と言っても白熱の試合シーン。「あしたのジョー」と「スラムダンク」は漫画ゆえにある程度はビジュアルに表現できる。しかし、「BOX!」は活字のみゆえにちょっと異色だ。しかし、どれも試合シーンはそれぞれの名場面だ。力石徹戦は矢吹丈の衝撃の逆転負け、絶対不利と言われた山王戦は残り3秒で流川→桜木へとパスが渡り、2万本シュートの成果が見事に決まった。木樽vs鏑矢戦、木樽vs稲村戦、そして鏑矢vs稲村戦はどれもが試合結果が予想を裏切る面白さだった。いずれの作品もページをめくる手が震えるが如き内容だった。
またヒロインの存在もある。白木葉子が長年嫌っていたと思われていた矢吹丈に対して、世界タイトルマッチの前に「好きなのよ」と言うシーンは子供心に感動的だった。「スラムダンク」ではそういうシーンはないが、常に晴子の存在が彩りを添えていた。「BOX!」では教師と生徒という関係からか恋愛関係には発展しないが、それでも生徒以上恋人未満の微妙な関係があった。
こうしてキーワードをみていくと、これらの要素をうまく加工すれば、自分にもなんだかスポーツドラマが描けそうな気がしてくる。私の場合はラグビーだが、恋愛こそ成就しなかったが、涙あり笑いありの実経験は豊富だし、いいドラマの素材には事欠かない気がする。ネックは「表現力」だろうな。「BOX!」のような目の前で展開されている試合を観ているが如き表現力は、とてもではないが難しい。まあ人生はまだまだあるし、アイディアを練る時間はたっぷりとある。人生の楽しみの一つとして、そんなドラマの構想を練ってみるのも悪くないと思うのである・・・
【本日の読書】
「暁のひかり」藤澤周平
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