2024年12月5日木曜日

就職するなら・・・

 現在、中小企業で役員として働いているが、担当は財務と人事である。本職は元銀行員としては財務と言いたいところであるが、人事も割合としては大きい。今は新卒・中途の採用を担当し、社員の福利厚生や面談などにより社員の意識を確認したりしていて、それなりに忙しい。中途は技術がわからないので現場の担当者に判断を任せる部分は多いが、新卒はほぼ採用の意思決定に関わっている。当社のような中小企業は、都心部では圧倒的に知名度に劣り、なかなか大学生の採用は難しい。必然的に地方の大学、専門学校がターゲットになってくる。

 そうした地方の大学生や専門学校生から見た中小企業はどのように映るのだろうかとよく考える。おそらく、言葉は悪いが端から有名企業への就職は無理と考えているので、我々のような中小企業もターゲットとして見てくれているのだろう。ゆえに毎年少ないながらも採用はできている。私の就活は(もうずいぶん昔の事だが)大企業が当たり前だと思っていたので(一応それなりの有名大学卒だ)、中小企業などは考えもしなかったが、銀行に入って多くの中小企業とお取引する中で、中小企業も悪くないと思うようになっている。

 日本の企業のおよそ99%が中小企業であると言われている通り、世の中は数の上から言えば圧倒的に中小企業社会である。ただし、1%の大企業が1社で中小企業の何百社分の売上を上げていたりするから目立たないだけである。少ない大企業の狭い門を争うよりも、中小企業の門を叩いた方が就職ははるかに楽だろうし、歓迎もされるだろうし、入ってからも会社の中核人材となれる可能性は圧倒的に高いと思う。レッドオーシャンよりもブルーオーシャンを目指すという考え方からすれば中小企業にこそ就職すべきだと言っても過言ではない。

 しかしながら、中小企業にはやはりリスクがある。それは大企業に比べて倒産率が高いという事だろう。今でこそ大企業も倒産する時代になったが、大企業は割といろいろな方面から救済措置が入る事が多い。JALもその一例である。もちろん、人によっては給料のカットや整理解雇という対象になる人もいるだろうが、企業本体は存続する。中小企業はほとんどそんな助けもなく倒産する。福利厚生に劣るケースも多いだろうし、給与水準も平均すれば低いだろう。中小企業の方が優れているわけではない。

 私の息子は今年大学に入学したばかりだが、いずれ就職となる。親としてもしもアドバイスを求められたら、間違いなく大企業を勧めるだろう。就職ではなく、起業したいと言われても一旦は大企業への就職を勧めるだろう。それは何よりも「箔」である。大企業から中小企業へ転職した(あるいは起業した)としても、「大企業に採用されるだけの人物」という意味で信用力が増す。その効果はバカにできないので、一旦は大企業に就職(できるなら)する方がいいだろうと思う。

 しかし、それが残念ながらできないのであれば、気持ちを切り替えて中小企業を狙う方がいいだろうと思う。中小企業もいろいろあって、いわゆる「スタートアップ」は坂の上を目指して頑張っていく遣り甲斐は溢れているだろう。我が社のような創業50年の老舗となると、そういうパワーはないが、安定感はあるかもしれない。ただ、その安定も海が凪いでいる時のもので、時化た時はその限りではない。しかし、頑張れる人物なら若くして社内で台頭できると思う。そういう頼もしい社員が我が社には何人かいる。

 企業の寿命は30年とよく言われるが、それは創業者の寿命に応じている。世代交代がうまくいけば寿命は伸びる。また、今の時代M&Aもありうるので、後継者がいない高齢の経営者は第三者に会社を委ねる事ができる。我が社も昨年それで子会社を増やした。従業員が100人未満の小さい会社であれば、そのあたりを意識する必要もあるかもしれない。中小企業が狙い目なのは、むしろ「転職組」かもしれない。大企業で競争から外れてしまった人(私もその一人だ)であれば、活躍の場を中小企業に移すというのも手である。

 サラリーマン人生のセカンドステージとしては、中小企業はいいと思う。大企業での経験は中小企業からすれば「喉から手」の経験であり、十分活躍はできるだろう。どこでもらっても年収700万円は同じであり、埋もれて安定の中で余生を過ごすのも悪くはないだろうが、中心で活躍する方が気持ち的には圧倒的にいいだろう。今の私がまさにそれを体現している。大企業では再雇用されるとは言え、60歳定年でガクンと年収は落ちる。しかし、私は銀行時代の年収の9割を維持しているし、これからも維持できるだろう。あのまま銀行にいなくて良かったと本当に思う。

 誰もが成功者の道を歩めるものではない。大企業に就職できなくても、気持ちを切り替えて中小企業に飛び込めば、その人の気持ちの持ち方次第、頑張り方次第でいくらでも(中心で)活躍できる。昔から言う「鶏口となるも牛後となるなかれ」は真実である。そういう確信を持って、採用活動に励みたいと思うのである・・・


達山 智子によるPixabayからの画像

【本日の読書】

砂漠と異人たち/宇野常寛(著者)





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