2023年9月6日水曜日

インボイス制度に思う

 インボイス制度がいよいよ10月1日から始まる。経理を預かる私も税理士と打合せして準備を整えるとともに、子会社で取引のある個人事業者に対する説明等にも追われている。このインボイス制度であるが、一体何のためのものなのか。制度を導入するには必ず目的がある。その目的を理解していると制度に対する理解も一層深まる。その昔、銀行に勤務していた時、しばしば事務のルール変更があった。「何のための変更か」とよく考えた。大概、それはどこかの支店で事務事故か不祥事があったのだろうとわかるもので、ルール自体を考えればそれがどんな事故だったのか推測できたものであった。

 しかし、インボイス制度はそれがよくわからない。国税庁のホームページによると、以下のように説明されている。

【適格請求書(インボイス)とは】

売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるものです。具体的には、現行の「区分記載請求書」に「登録番号」、「適用税率」及び「消費税額等」の記載が追加された書類やデータをいいます。

【インボイス制度とは】

<売手側>

 売手である登録事業者は、買手である取引相手(課税事業者)から求められたときは、インボイスを交付しなければなりません(また、交付したインボイスの写しを保存しておく必要があります)。

<買手側>

 買手は仕入税額控除の適用を受けるために、原則として、取引相手(売手)である登録事業者から交付を受けたインボイスの保存等が必要となります。


 これだけだとわからない。しかし、実務の流れを追うとわかってくる。買手側に立つと、取引相手がインボイスを提示しない場合、支払う消費税は納める消費税から控除されない。企業は売上を上げた場合、消費税を受け取るが、それは後に税務署に納めるものである。その時、支払った消費税をそこから差し引きできる。しかし、インボイスのない取引相手に支払った消費税は差し引きできない。つまり、消費税を二重に支払うことになる。勢い、「インボイスのない相手には消費税を払わない」という選択をするしかない。


 一方、その取引相手は消費税を受け取れないので、実際に受け取る金額が減る。今まで10万円+消費税1万円の合計11万円受け取っていたところ、10万円しか受け取れなくなる。実は、消費税には、免税業者という者がいる。年間の売上が1,000万円未満の事業者は消費税の納税を免除されているのである。免除されているのは納税で、受け取ることはできる。11万円受け取っても1万円の納税が不要なのである。これが「益税」と呼ばれるもので、小規模事業者のメリットであった。インボイス制度がスタートすると、この益税がなくなることがわかる。


 このあたりまでくると、目的が見えてくる。つまり、これまで納税を免除されていた小規模事業者から消費税を巻き上げようというものだ。インボイスの登録事業者となれば受け取った消費税を納税しないといけない。つまり、11万円受け取っていたものを1万円納税しないといけない。どちらに転んでも、これからは10万円しかもらえなくなる。おそらく、「小規模事業者から消費税を徴収する」としたら、共産党を筆頭に大反対の声が起こることは間違いない。だからそれとは知らせず、うまくわかりにくい手続きに包んでごまかしたのだろうと推察される。


 なるほどこれは小規模事業者をターゲットにしたイジメかと思うが、そもそも益税があるのがおかしくて、消費税としてもらったのなら納めるべきだという理屈に立つのであればおかしなことではない。ただ、導入時に小規模事業者を免税とすることで、消費税導入のダメージを緩和するという目的があったような気もする。時間も経ったことだし、ここにきてそれをさりげなく撤廃しようと意図したのかもしれない。そしてさらに考えてみれば、買手からすると、これまで11万円払っていたものを10万円払えばよくなるので、メリットと言えばメリットである。小規模事業者が享受してきた益税が消失し、買手の下に戻ったということだろうか。


 いずれにせよ、支払う企業側から見れば、面倒な手続きはあるものの、経済的なデメリットはない。文句を言われたとしても、「お上の決めたことだから」と答えるしかない。これで税収がどのくらい増えるかは、どれだけ免税事業者が登録をするかによるのだろう。だとすれば、税務署は一生懸命登録を勧めることになるのは当然の流れだろう。それにしても、国家財政難の現在、国税局もあの手この手で税収を上げることに躍起になっている。そしてここまで手順を複雑化させて本来の目的を隠し、「机の下」で税収を増やす手法は凄いの一言である。


 これからも身の回りでルールが変わったりすることは多々あるだろう。そのすべてをというわけにはいかないが、せめて自分に関係のあるルール変更については、「その目的は何か」を読み取るようにしたいと思う。抵抗はできなくても、その意図はしっかりと理解したいと思うのである・・・


BrunoによるPixabayからの画像

【本日の読書】

  




0 件のコメント:

コメントを投稿