2022年9月19日月曜日

深淵をのぞき込む

 ここのところ『時間の終わりまで』という本を読んでいた。著者はアメリカの理論物理学者。大雑把に言うと、宇宙の始まりから時間に関する話、そして生命に関するあれこれといった話なのであるが、この手の話が好きなこともあって、よく関連する本を読んでいる。読んでも果たして本当に理解できたのかどうかは難しいところなのであるが、それでも読まずにはいられないところがある。

 そもそも宇宙はビッグバンによって始まったというのは、一般的によく知られている。しかし、ではそれ以前はどうなっていたのかはわからない。まったくの「無」だったのだろうか。そうだとしたらまったくの「無」からどうしてビッグバンが生じたのだろうか。ビッグバンというのはかなりのエネルギーの爆発(という表現が正しいのかわからないが・・・)だと思うが、いきなり「無」から生じるのか、それともそれ以前に何かがあったのだろうか。

 クリスチャンならそこに旧約聖書を持ち出して、「神が光あれと告げたから」ということで納得するのかもしれないが、実に不思議でたまらない。話は量子物理学の世界にも及び、そこでは粒子の話になるのであるが、そもそもそういう粒子はどうやって生まれたのだろうかと不思議に思う。おおよそこの世の物質はすべてミクロの世界では原子から成り立っているというが、そういう原子や物質そのものはどうやって生じたのだろうか。科学は恒星や惑星の成分は分析してみせるが、どうして物質が生じ、それが集まって恒星になり、惑星になるのかは明らかにしてくれない。

 地球に目を転じると、無機物の集まりの中からどうして有機物が生まれ、生命が誕生したのかも不思議なこと。いろいろと説明はしてくれるが、そこには結局、これでもかという奇跡の積み重ねによる結果であり、『生命の謎 ドーキンス「盲目の時計職人」への反論』という本では、とうとうそれを「神の御技」としてしまっている。考えてみれば、今この瞬間、自分自身が存在し思考していることすら不思議なこととしか思えない。我々は「自分の意志」で生きることができないのである。

 本はさらに先に進み、宇宙の終わりをも語る。「ビッグリップ」というそうであるが、ビッグバンからおよそ1,000億年後だそうであるが、1,000億年という時間単位も想像の範囲を超えてしまう。人類(ホモ・サピエンス)の歴史だって10万年くらいだろうから、まるでスケールが違う。ましてや1人の人間などせいぜい80年ちょっとであるから、想像すらできない時間感覚である。それに時間の進み方は一律ではないとされているので、もう何を基準にしていいのかもわからない。

 こうしたことは、著者のような専門の学者さんが日夜研究しているのであり、我々一般人はその恩恵にあずかるしかない。しかし、私ならもしもそんな専門家になっていたら、気が変になっていたかもしれない。確か映画『アビス』で知った言葉であるが、「深淵(Abyss)をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている」というのがある。ニーチェの言葉らしいが、そんな果てしのない世界を覗き込むと、そこに落ちていってしまいそうな感覚になる。

 そんな「深淵」などのぞき込まないのが一番である気もする。そんなことなど考えなくとも日常生活は送れるし、何も困らない。しかし、のぞき込みたくなるのが人間なのではないかと思う。この世の始まりはどうやって起こったのか、は誰でも疑問に思うだろう。昔の人はそれを神様に集約した。この世の不思議はすべて神様にお任せできたのは、ある意味幸せだったのかもしれない。しかし、今や神様の領域は随分と縮小してしまったし、「深淵」をのぞき込んでしまった以上は仕方がないと思う。

 それにしても宇宙の果てはどうなっているのだろうとやはり思う。それがわかる日がいつかくるのであろうか。宇宙の広さは「観測可能な」範囲で半径約465億光年だそうである。人類が火星まで行くのに約8ヶ月かかるそうだが、光の速さだと13分。その光でさえ465億年かかる広さって一体何なんだと思う。まさに「果てしない」としか言いようがない。始まりだ果てだ、終わりだと言っても、想像が及ばないのも無理はないかもしれない。

 もしもこの世を創造されたのが神様であるのなら、広大な宇宙のほんの片隅の小さな惑星に暮らす人間のことなど気にもしないのではないだろうかと思う。それは我々が自分の体の細胞のことなど気にもとめないのと同じである。そう考えると、神頼みなどしてもやはり意味はないと思う。「神仏は尊ぶが神仏に頼らず」という宮本武蔵の精神はやはり有効である。

 たまにはこうやって「深淵をのぞき込む」のもいいのではないかと思う。そうして一晩寝たら、また明日から現実に足をつけて仕事を頑張ろうと思うのである・・・


Felix-Mittermeier.deによるPixabayからの画像 

【本日の読書】

 


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