銀行員時代、多くの中小企業経営者とお付き合いしてきたが、経営者の方の多くがお悩みだったのは、「人材がいない」というものであった。実際、中小企業に転職してきて思うのは、それは能力云々というより、「経営マインドを持った人間がいない」ということだと理解できた。「経営マインド」とはすなわち、「会社を経営する立場で考える」ということである。これは何も社長だけに限ったことではなく、役員も然りである。
「人材がいない」と嘆く社長さんの会社に役員がいなかったわけでもないだろうが、形の上では役員であっても、一般社員と変わらなかったということだろう。これはつまり、役員であるにも関わらず、経営マインドを持っていなかったということである。そういう役員はどんな行動をするのかというと、「言われたらやる」「聞かれたら答える」といったレベルだろう。経営マインドがあれば、「言われなくてもやる」し、「聞かれなくても意見具申」するだろう。
たとえば、10人くらいでみんなでご飯を食べに行くとする。よくあるのが、「何を食べようか」となり、みんなに意見を聞くと「何でもいい」と言って顔を見合わせるような場合だ。その時、「では中華にしよう」と提案できるのが、たとえるなら経営マインドを持った人物と言えるだろう。チームの行く道を提案できることである。先の中小企業に例えると、「中華にしよう」という人がいないのである。社長は常に1人で何を食べに行くか決めている状態で、それは当然と言えば当然であるが、社長の立場からすると、「たまにはお前たちも意見くらい出せよ」と不満に思うわけである。
10人が10人、全員が「何が食べたい」というのもにぎやかで活気があっていいかもしれないが、できれば3~4人のコアになる人たちが意見を出し合い、出てきた意見を基に社長が判断するというのが、効率的かつ適切かもしれない。この時のコアとなるのが、役員となる人である。さらにここで、自分の意見に根拠を示せればなおベターだろう。「駅前のイタリアンは今週3周年記念でランチ半額サービスを実施しています」というような根拠である。
こういう時に提案できるためには、日頃から準備していないといけない。たとえば、家で夕食時に家族とテレビを何気なく見ていても、おいしい店の紹介などを見たら、チェーン店が近所にないかとその場で調べてみるとか。役員は9時から5時までが仕事ではない。常に常在戦場で、アンテナを張り巡らせていないといけない。プライベートだからといってボーっとしていたら、チコちゃんに怒られるまでもなく、役員失格である。
中小企業では、役員と言ったって威張っている余裕などないかもしれない。一般社員と一緒になって汗を流して働かないといけないかもしれない。ただ、だからと言って考え方まで「社員モード」になっていてはいけないのである。たとえば社長が緊急入院したとしたら、社長不在の中、社員に必要な指示を出して会社を動かしていかないといけない。その時、「みなさんどうしましょう」ではいけないのである。
社長であれば、「人材がいない」と嘆くばかりでなく、そういう人材を育てる意識を持たないといけないし、役員である人は、そういう行動が取れているか自問自答しないといけない。肩書だけで満足しているのか、あるいは何をしたらいいのかわからないのかもしれないが、根拠をもって「中華にしましょう」と提案できているかどうか、一度振り返ってみるべきだろうと思う。
【本日の読書】
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