仕事で不動産賃貸業に携わっているのであるが、最近、ちょっと気になっていることがある。それは個人投資家の市場参入である。と言っても別に今始まったわけではない。主だったところでは、地主が相続対策としてアパートを建てるのは私が大学を出て銀行に就職した30年前から一般的になっていたし、それは今でも変わらない。もっとも最近では海外の投資家が国内の不動産に投資したり、 J-REIT などの登場により不動産投資の間口はかなり広がっている。
それはそれでいいのであるが、最近気になるのは地主ではない個人投資家によるアパート建築である。それらの個人投資家は、土地建物一体で新規に購入するパターンで市場に参入している。すべてを把握しているわけではないが、仕事は別に持っていてその傍らで不動産投資するというパターンである。それ以外にも「サラリーマン大家さん」という言葉が持てはやされ(かつて職場にもそんな電話が随分かかって来たし)、それに乗って投資している人もいるようである。
みな最終的に自己判断でやっているのだからとやかくいう事ではないのだが、本業としての立場からすると、どうも危うい気がする。最近、一棟アパートの新築案件に立て続けに接したが、狭い敷地内に目一杯建物を建て(もちろん建築基準法には違反していない)、その中にまた目一杯区分して部屋を取っている。一つの部屋の面積は10㎡ちょっとである。はっきり言って狭い。同じ面積ならいかようにも設計できると思うが、より採算を重視し、部屋の数を多く取るという考え方である。
もちろん、それで当面は入居者も確保できるだろうし、大家さんとしては満足いく投資だろう。何より不動産投資は入居者さえ確保できれば安定した収入が得られる。だが、それはあくまでも向こう10年くらいの話である。人口減少が確実なこのご時世、10年後も大丈夫かは、私自身も常に意識している。どの物件なら大丈夫という保証はないが、人よりも部屋が多くなったら、選ぶ方が断然有利になる。同じ家賃ならより広く、より駅に近くとなるだろう。果たしてそんな狭い部屋にわざわざ住もうと思ってもらえるだろうかという疑問である。
新築ならまだしも、中古になると同じ条件なら広い部屋が好まれるだろう。広い部屋なら時流に合わせて改装によって雰囲気を変えるバリエーションにも幅が出てくるが、狭い部屋では難しい。どうしたって不利である。対抗しようとしたら家賃を下げるしかないが、下げて入ればまだいい方で、最悪の場合空室が常態化する可能性もある。もちろん、それを見越して余裕のある資金計画であれば問題ないが、借入依存度が高いと下手をすると毎月持ち出しになりかねないし、そういうケースでは売ろうと思っても買い叩かれるのが常である。
我々が事業として考える時、投資採算はもちろんだが、「住み心地」も意識している。自分たちが住む場合、ここを選ぶだろうかという視点である。我々であれば、同じ面積でももう少し各部屋を広くするだろう。当然、トータルでの家賃収入は低くなるだろうが、目先の事を考えるか長期的な視点を持つかとなれば迷う余地はない。そんな我々からすると、明らかに電卓ばかり叩いている計画にどうにも危ういように思えてならないのである。もちろん、あくまでも我々の見方であって、絶対ではないからバラ色の未来も十分可能性はあるのではあるが・・・
世間では「かぼちゃの馬車」事件が世を騒がせている。引っ掛かったオーナーさんには気の毒だが、これもオーナーはただ言われるがままその通りだと受け入れて実行したのだろうと思う。問題は運営側であるのは事実だが、投資する側としてはやはりこういう事態を防がないといけない。そのためには投資する人もただ提案を鵜呑みにするだけでなく、自分自身勉強しないといけない。何もせずに寝ていて儲かるほど世の中は甘くはない。それは不動産投資に限らず、株式投資でもそうだし、それ以外にも投資にはすべて当てはまることだと思う。
【本日の読書】
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