2017年8月11日金曜日

窮地に陥った時に・・・

 賃貸業を営む我が社で、最近似たような、それでいてまったく異なる対応をとった2つのケースがある。いずれも窮地に陥った賃借人の方が退去されたのに伴うものであったが、その時の相手の対応を見ていて、人間の本質というものは窮地に陥った時にこそ現れるものだとつくづく感じた。そしてその対応がもたらす影響についても。
 
 その賃借人の方は、1つは法人契約の事務所でもう1つは個人の住居であった。法人は経営が厳しくなり、個人は会社の業績悪化で給与が減額になったのである。いずれも契約更新のタイミングであった。法人の方は家賃の減額要請から始まり、ちょうど家賃相場が上昇していたことからこちらも応じルことができず、かわりに更新料の免除を(こちらから)提案した。断って退去してもらっても良かったのだが、それまでの家賃の支払い振りも問題なく、困った時にこそこちらでも協力して差し上げようとの考えであった。

 一方の個人の方も、退去方法の問い合わせがあって、そこから事情をお聞きして事情が判明した。「これからどうなるかまだわからない」との事だったので、とりあえず更新料は棚上げし、しばらく様子を見て退去なら免除、そのまま入居なら払っていただくということにした。こちらの方も家賃の支払いは問題なく、困った時こそ協力して差し上げたいとの考えであったことは同じである。

 両方とも業績が改善することなく、最終的に退去となった。退去となると事前予告期間を設けさせていただいている。法人は3か月、個人は1か月である。たとえすぐに退去しても、この期間分の家賃はいただくことになっている。これは大概どこでも同じで、要は大家にも次に貸すための準備期間との意味合いもあるのである。ところが、法人の社長はこれに難癖をつけてきた。「退去は更新時に申し出た」とか、「そもそも更新するつもりはなかったのに我が社から頼まれたから応じた」とかである。要は3か月も取らずに敷金を返してほしいという意図からの難癖であった。

 一方の個人の方は、更新料の据え置きに感謝しつつ、退去のお詫びとともに解約予告期間分の家賃もきちんと払うと申し出てきた。部屋は気に入っていて残念だけど、もう家賃を払えないので仕方ないと・・・
私は担当者として、法人の方は不当な言いがかりをすべて突っぱね、きっちり1円単位で必要な資金を差し引き、わずかに残った敷金を返却した。それに対し、個人の方は退去日付けで解約金を精算し(それは約1週間分程度であった)、クリーニング費用だけ規定料金をいただいて残りを返金した。契約の規定よりも多く返金させていただいた。

 どちらも事象は同じであるが、片や契約通りにきっちり精算し、片や契約は無視して余分に返金させていただいた。その違いはひとえにご本人の態度である。こちらも人間であるから、困った人を前にすれば何とか力になれたらと思う。その最初の行為に対して、片方は感謝で答え、片方はそれを忘れて自分の都合を押し付けてきた。お金に困ることは誰にとっても大変なことであるし、追い込まれれば「なり振り構わず」も仕方ないと思う。だが、それを受ける方にも感情がある。

 片方は、窮地に陥りながらも相手との契約を尊重し、片方は自分の都合でそれを踏みつけてきた。その結果は、上記の通り。相手との契約を尊重した個人の方は我々から譲歩を引き出し、結果的に契約で定めた以上の返金を受けたが、踏みにじろうとした社長は契約通りに支払うこととなった。個人で給料が大幅に減額となることは、先々の不安もあるだろうし大変なことだと思うが、それでも筋を通されたのは立派だし、我々も取れるお金を放棄した形になるが、それより相手に喜んでもらえていい気分だった。法人の方はきっちりお金をもらったが、不毛な言い掛かりに付き合わされ、気分は最悪だ。

 子供の頃、おとぎ話で「金の斧銀の斧」とか「おむすびころりん」とか、正直者のおじいさんが得をして、欲張りじいさんがひどい目にあった話を誰でも知っている。子供の頃は誰でも自分は正直者のじいさんになろうと思ったと思うが、大人になってその通りになっているだろうか。「俺の落としたのは金の斧だ」と平気で言う大人が実に多い。件の社長も見事にそうであった。その姿は、こちらから見ると浅ましい限り。醜い欲張りじいさんの姿そのものであった。

「人のふり見て我が振り直せ」
常に意識していることであるが、自分もいざ窮地に陥った時に今回の個人の方のような対応が取れるだろうかと考えてみる。
 いざその時になってみないとわからないが、「取りたい」と心から思う。そんな時が来ないに越したことはないが、万が一の時があっても、自分は子供の頃になりたいと思った正直じいさんでありたいと思う。今回の事は、その時に是非とも思い出して参考にしたいと思うのである・・・





【今週の読書】
   
   

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