普段、ドラマなど観ない私であるが、たまたま観たら面白くて続けて観ているドラマが、『家を売る女』である。ある不動産仲介会社に勤務する女性営業チーフのドラマである。基本的にコメディなのであるが、主人公の三軒家万智の働く姿は、見ていてなかなか考えさせられるところが多くて、ついつい観てしまっている。
一つは、その提案力である。これは別のところに書いたので繰り返さないが、相手の要望に応えるだけなのは、以前も書いた通り最低限のスタンスで、他所と競争となったら、ちょっと気の利いた相手だと絶対に勝つことはできない。私などライバルがこういうスタンスだったら、大喜びしてしまうだろう。相手自身気がついていないニーズを捉えて提案できてこそ、「競争力のあるプロ」となれるのである。
もう一つは、逆に欠点とでもいうべきところである。この三軒家チーフはとことん個人プレー主義。部下の教育を兼ねて三軒家チーフの営業に若手を同行させようとする上司(課長)に対し、面と向かって反論する。「私の仕事は家を売ることで部下を育てることではない」と。とにかく「職場は一つのチーム、職員は皆チームメイト」と、ごく当たり前の感覚を持つ課長はやりにくくて仕方がない。まぁもともと不動産仲介業者という業種は、インセンティブで動く個人業者の集まりみたいなところがある。三軒家チーフの主張もある意味当然なのである。
第3話では、同僚が売りあぐねていた外国人向けマンションを、視点を変えて大家族向けにSNSで販促する手法で三軒家チーフが売る。そして売り上げの成果を担当2名と三軒家チーフとで3等分しようと提案する課長に対し、三軒家チーフはあっさり「売ったのは私です」と自分だけの成果だと主張する。3物件の売り出しに際し、課長はそれぞれの物件に担当者を割り振り、三軒家チーフにはそのすべてのサポートに回るように指示するのだが、三軒家チーフは全て自分が売ると主張する。
仲村トオル演じる課長の考えることはごく常識的なことで、私がこの課長の立場でも同じ指示を出すであろう。そしてその指示に従わず、ただひたすら個人で家を売る三軒家の存在は、「仕事はできるが厄介な存在」であることは間違いない。こういう部下を持ったらどうすればいいのだろうか。「厄介だ」と頭を抱えているだけでは、「使えない上司」のレッテルを貼られてしまう。
私が課長だったら、「評価方法を変える」ことで解決を図るだろう。
私が課長だったら、「評価方法を変える」ことで解決を図るだろう。
この会社では、各人の成績は各人が稼いだ「仲介手数料の合計額」で表しているようである。すなわち、家を売った場合、その売買価格によって仲介手数料が得られるが、自分が売った家の仲介手数料を成績としているのである。つまり、各人の成績(多分これで賞与の額とか昇格とかが左右されるわけである)がこのように評価される以上、三軒家チーフの行動は理にかなっているわけであり、部下の教育を一生懸命やってもボーナスは上がらない。これだといくら課長が「チームプレー」を説いても、従わせるのは難しいだろう。
私が課長だったら、営業チーフの成績は「自分がサポートして部下に売らせた仲介手数料」で評価するように改めるだろう。これなら三軒家チーフがいくら1人で売っても、それは「評価対象外」となる。勢い、三軒家としては各案件ごとに部下を引き連れ、指示を出し、クロージング(契約)まで持っていかざるを得なくなる。チーフのノウハウを直に学べば、部下も自然と成長するはずで、まさに課長が理想として考えているチーム営業が実現するわけである。
同じ不動産業界のドラマゆえに、たまたま観始めたドラマであるが、非常に面白い。と言っても、「いろいろ考えるヒントに溢れている」という意味で、ドタバタの展開が面白いというわけではない。まぁドラマの見方は人それぞれだし、ビジネス視点で観ても、ストーリーで観ても、北川景子に見とれて観ても、それはそれでいいわけであるから、それぞれの見方で楽しめばいいと思う。。
「三軒家チーフを部下に持った課長の視点」で観ても、「三軒家チーフを上司に持った部下の視点」で観ても、「自分だったらどうするか」と考えながら観ると、単なるコメディも学びの多いドラマとなる。これからしばらくは、毎週水曜日を楽しみにしたいと思うのである・・・
【今週の読書】