2015年6月13日土曜日

救急車の有料化

 昨日の産経新聞に救急車の有料化議論が載っていて、興味深く読んだ。そもそもは、救急車の出動件数が増加していて過去最多を記録し、その稼働状況は限界に来ているという問題が発端らしい。そして搬送者の半分が搬送の必要のない軽症者だという。中には「救急車で搬送されると待たされずに診てもらえるから」という不届き者もいるらしい。こうした背景から、救急車の有料化案が出てきており、賛否両論が併記されていた。

 話はそれるが、この討論はいいと思う。賛成反対それぞれの意見が併記されていて、読者はそれぞれ比較できる。これこそが新聞の役割だと思う。と当たり前のことをわざわざ言うのも、新聞の実態はそうではないからである。例えば、産経新聞は原発推進派だから、原発稼働に関する記事は「賛成目線」で書かれている。反対論によっていかに国益が削がれているかが、事あるごとに強調されている。何も考えずに読む人はそういうものかと思うだろう。こういう世論のリードはけしからんと、常々思っているから、こうした公平な議論は好ましい限りである。

 さて有料化に対する反対論は、「弱者切り捨てに繋がる」とするわかりやすい理屈で、必要のない利用をどう防ぐかは課題だとしつつ、
・搬送後に医師の判断で応分の負担を求めるのはいい(追加罰金という形だろう)
・無料は日本が世界に誇る制度(有料の国も多いらしい)
・不必要な利用者には他者の命を脅かしていることを伝える(要は市民教育だ)
といった方法を主張している。わからなくもないが、説得力十分とはとても言えない。

 よくよく考えてみれば、この問題を解決する方法は2つしかない。すなわち、「救急車を増やす」か、「利用を減らす」かだ。反対者は前者を主張しており、賛成者は後者の具体案として有料化を主張している。だが、「この国家の財政難下で、救急車を増やす」という選択肢は安易に取れないだろう。となれば、「利用を減らす」という観点から考えないといけなさそうである。そうなると、やっぱり有料化案しかないのだろうかと思うも、それについてはちょっと気になることがある。

 それはかつてマイケル・サンデル教授が、『それをお金で買いますか』で採りあげていたイスラエルの保育園の例である。その保育園では、親が子どもの迎えの時間に遅れるのに困り、これを防ごうと罰金制度(有料化案だ)を導入したという。ところがふたを開けてみれば、それが効果を発揮するどころか、逆に遅れる親が増えてしまったという。「お金を払えば遅れてもいい」という風に解釈されてしまったのである。たぶん、遅れないように必死に頑張っていた親たちは、「お金を払えば頑張らなくても遅れていける」と考えたのだろう。こうした危険性はないだろうかと思うのである。

 つまり、「お金を払えば(軽症でも)救急車を呼んでいい」と思われてしまわないかということである。そもそも「タクシーで来ると待たされる」という理由で救急車を呼ぶような不届き者である。タクシー代だと思ってお金を払うつもりなら、有料化も効果はない。何せ救急車は信号待ちもなく、確実にタクシーより早く病院に着く。さらに救急扱いで優先的に診てもらえるから、少しぐらい割高でもその方がいいと思う人が出てきても不思議ではない。安易な有料化は、実は逆効果かもしれないと思う。

 ならどうするか。個人的には、「軽症と判断した段階で搬送拒否」というのがいいような気がする。新聞では、その方法は「判断が難しい」とされていたが、そうだろうかとも思う。迷ったら運べばいいだけだし、そもそもタクシー代わりに使おうとする輩なら、救急隊員にも十分見分けられるだろうと思うのである。一度拒絶されれば、「日に2度も救急車で来る」ということはなくなるだろう。

 あれこれと考えてみると、なかなかいい思考トレーニングになった。これは良いコーナーだと思う。願わくば、第1面からすべてにわたってこうした公平な観点からニュースを伝えてもらいたいと思うのだが、たぶん期待はできないのだろう。

 残念だがそんな期待は無理な以上、(偏った意見の記事は)自分の見る目を養えていいと、前向きに思っていこうと思うのである・・・


   

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