2009年5月2日土曜日

小池真理子

 「つもり違いの十か条」
   一条 高いつもりで低いのは教養
   二条 低いつもりで高いのは気位
   三条 深いつもりで浅いのは知識
   四条 浅いつもりで深いのは 欲
   五条 厚いつもりで薄いのは人情
   六条 薄いつもりで厚いのが面の皮
   七条 強いつもりで弱いのは根性
   八条 弱いつもりで強いのが 我
   九条 多いつもりで少ないのは感謝
   十条 少ないつもりで多いのが無駄
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 私の愛読する作家の一人に小池真理子がいる。
主として恋愛小説を書いている作家である。
何気なく読み始めたのであるが、ハマってしまい、以来新刊が出るたびに欠かさず読んでいる。

何が良いのかと問われれば、やはり文章と答えたい。
小説にはストーリーで読ませる作家と文章で読ませる作家があると思う。
スケートに例えるなら、スピードスケートとフィギアスケートのようなものだ。
東野圭吾や福井晴敏など、圧倒的なストーリーでぐいぐい引っ張るようなタイプはスピードスケートだ。一方の小池真理子は優雅な美しさを競うフィギアだ。

といってもストーリーが面白くない、というわけではない。
主人公は大概が40代の女性だ。
恋愛小説で主人公が40代となると、最近でこそ「アラフォー」などと言われてもてはやされているが、月9の恋愛ドラマに慣れた人からすると魅力は感じないかもしれない。
雨の中でびしょ濡れになりながら、「お前じゃなきゃダメなんだ!」なんて叫ぶシーンなどは無縁だからだ。

その代わり、登場人物たちを巧みに豊かに描き出していく。
さり気ない日常を、心の動きを優雅に綴る。
水道から滴り落ちる水滴や、窓から飛び込んでくるまばゆい光、路傍で解けずに残っている雪などの何気ないモノたちも、小池真理子の手にかかると、生き生きとして、まるでそれ自体が主人公であるかのように描かれる。ホームに入ってくる電車の中に人を探す登場人物の心の動き、新しい生活を始めるべく新転地の駅からタクシーに乗った人物の心の動きをつぶさに描き出す様は圧巻である。

文字だけしか見ていないはずなのに、脳裏に映像がまざまざと蘇ってくる。
「ああ、うまいなぁ」と読んでいてタメ息が漏れるのだ。
かつて将来は小説家、とはいかなくても本を書いてみたいなぁなどと漠然と思ったことがある。
銀行員とシンガーソングライターという二束のわらじを見事に履き分けた小椋佳とまではいかなくても、銀行員と小説家なんて素敵じゃないか、などと夢見たくもなる。

だが、こんな文章を目にしてしまうとそんな甘い幻想はたちどころに吹き消されてしまうのだ。
これほど優雅な舞いは、どうあがいても舞う事はできないと思わされる。
プロのなせる業と言ってしまえばそれまでなのであるが、そのほんの一部だけでもいただきたいものだと思わずにはいられない。

まだまだたくさんの作品を生み出してくれそうなので、これからも一冊一冊、その深い味わいを楽しみたいと思うのである・・・




  

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