時折仕事で外出する。
千葉方面に取引先が多い事から、往復に総武線の快速電車を利用する事がままある。
総武線の快速は千葉から東京へ向かい、そのまま横須賀線に乗り入れ神奈川県の逗子まで走っている。取引先からの帰りに、千葉駅のホームでこの電車を待っていた。
ちょっと疲れていたので座りたかったし、先頭に並んでいたからまあ座れるだろうと踏んでいた。電車が到着し、扉が開いても駆け込んだりはしない。よく降りる人も降り切らぬうちに、空いた座席に突入して行く人がいるが、そういう行動は私の美学に反する。その時も悠然と車内に乗り込み、「空いているから座ろうか」という態度で座席をゲットした。
やれやれと安堵する間に次の駅。
乗り込んできた人たちを迎え、隣の女性が席を立った。
どうやらお年寄りに席を譲っている。
ちらりと見ると、相手は老夫婦。
咄嗟に隣に座っていた女性の向こう隣を見ると、老婆が般若心境のようなものを読んでいる。私が座っていられたのは一駅だけだった。
空いたらまた座ろうと吊革につかまる。
隣に立っていたのは女子高生。
何やら数学のテキストを開いている。
ちょっと興味が湧いて、横目で覗きこむ。
何せ数学は好きだったし、何より文系のくせに数学のテストがある(しかも配点も高い)大学を受験した経験がそうさせたのだ。
ところが、テキストの内容がちんぷんかんぷん。
聞いた事のない定理が書いてあるし、数式も何が何やらわからない。
あとでちらりと見えたタイトルには「数学C」とあった。
なるほど、昔は数学Ⅲといった記憶があるが、文系の私はやっていない。
わからないはずだ。
すると座っていたお爺さんが立ちあがって話しかけてきた。
早々に降りるのかと思い、しめしめと思っていたら、「東神奈川に止まりますか」と聞いてきた。(そんな、東京駅より先のことなどわからないよ)と思いつつ、確か止まらないので乗り替えないとだめだと答えた。それだけだと不親切というもの。
「品川の次あたりで乗り換えだと思う」と答え、路線図はあったか、誰か周りの人に尋ねようか、携帯で検索したら出てくるかななどと迷っていた。
すると突然隣の女子高生が、「品川に止まりますよ」とスマートフォンを差し出して話しかけてきた。たぶん我々の会話が聞こえたのだろう。
さっと検索して教えてくれたのだ。
(いや品川に止まるかどうかじゃなくて、どこで乗り換えるかなんだけど・・・)と内心思いながらもその親切心に関心した。
情報リテラシーには不足していないつもりだったが、数学Cのテキストとスマホをもった女子高生には遅れを取ってしまった。
女子高生はそのあとの駅で降りていき、私も同時に空いた席に腰を下ろした。
歩き去る女子高生の背中を見送りながら、そろそろ私も買おうかなとちらりと思ったのである…
【本日の読書】
「この国を出よ」柳井正/大前研一
「殺人の門」東野圭吾